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「俺の事、覚えてます?」
「情報提供者のロリコンさんですよね」
「えぇ、椿木麗です」
せめて『ロリコン』のところは否定して欲しかった。
コーヒーカップをソーサーに戻した彼は、右目にあるモノクルの位置を正した。左目の義眼も変わり無く、そこにあり続けている。テラス席に座って、尚且つ時代錯誤な、書生服に編み上げブーツという服装でえらく目立っていた。だけれど、細かいところが気になった。
「……一人称、変えたんですか?」
「え?……あぁ、この一人称が素で、『私』を使うのは仕事の時だけです」
どうぞお掛けになってください、と目の前の空き席を勧めてくる。椅子を引いて腰を下ろすと、丁度、時計塔の鐘が大きく鳴り響いた。授業終了の合図らしい。途端に、椿木は時計塔を見上げながら切り出した。
「あの時計塔……黎明の時計塔と言うらしいですよ?一体いつ、立ったのでしょうね…?」
「知りませんよ。ここの学生にでも、椿木さんが聞いてみれば良いのでは?」
「あぁいえ、そうでは無く。……ここの学生に聞いたら、全員分からないと言ったんです。俺はこの近辺に住んでいるのですが、1週間前にここを通った時は、ありませんでしたよ?」
それは、おかしい。たった1週間でこの巨大な時計塔を建設するのは不可能だし、何の音も立てずに建設するのも無理がある。ここは学校関連の施設が多いから、それなりに人通りも多い。
なのに何故、ここに通う人間は不思議に思わないのか。
椿木が違和感を感じているのなら
「枢が桜楓高校の関係者全員の記憶操作をしている…」
「と考えていたんですよ、俺も」
これは職権濫用ですよね、と椿木は肩を竦めた。
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