天秤と鎌と魔眼

8/38

28人が本棚に入れています
本棚に追加
/126ページ
「俺の事、覚えてます?」 「情報提供者のロリコンさんですよね」 「えぇ、椿木麗(つばきみちる)です」 せめて『ロリコン』のところは否定して欲しかった。 コーヒーカップをソーサーに戻した彼は、右目にあるモノクルの位置を正した。左目の義眼も変わり無く、そこにあり続けている。テラス席に座って、尚且つ時代錯誤な、書生服に編み上げブーツという服装でえらく目立っていた。だけれど、細かいところが気になった。 「……一人称、変えたんですか?」 「え?……あぁ、この一人称が素で、『私』を使うのは仕事の時だけです」 どうぞお掛けになってください、と目の前の空き席を勧めてくる。椅子を引いて腰を下ろすと、丁度、時計塔の鐘が大きく鳴り響いた。授業終了の合図らしい。途端に、椿木は時計塔を見上げながら切り出した。 「あの時計塔……黎明の時計塔と言うらしいですよ?…?」 「知りませんよ。ここの学生にでも、椿木さんが聞いてみれば良いのでは?」 「あぁいえ、そうでは無く。……ここの学生に聞いたら、。俺はこの近辺に住んでいるのですが、1週間前にここを通った時は、?」 それは、おかしい。たった1週間でこの巨大な時計塔を建設するのは不可能だし、何の音も立てずに建設するのも無理がある。ここは学校関連の施設が多いから、それなりに人通りも多い。 なのに何故、。 椿木が違和感を感じているのなら 「…」 「と考えていたんですよ、俺も」 これは職権濫用ですよね、と椿木は肩を竦めた。
/126ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加