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「夫になった人が待ってます。一緒に帰ってやってください」
新郎は招待客の一人と談笑していた。親しい友人なのか、こちらに注意を払う様子がない。
「自分も帰ります。だからあの人の家に帰ってください」
八年前は言えず、今でしか言えないことを。
「いつまでも元気で、坂倉詩織さん」
加勢という姓から離れた詩織は、新たな名前に強く頷いて新郎のもとへ戻っていった。その瞬間、一組の男女がひとつになったように見えた。少しの間二人を眺めていたが、やがて慎一も残った仕事を片付けに戻っていく。その間詩織はずっと新郎に眼差しを向けていた。一緒に帰る時間を待ち望む佇まいは、八年前の慎一が想像したよりもずっと優美な姿であった。
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