クロスデイ

1/19
14人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
 窓辺に佇んで外を眺めてほしい。与田慎一が丁寧な口調で言うと、加勢詩織は困惑と安堵がないまぜになった顔をした。  いくら食べても太らないと、半ば自慢のように言っていたのが思い出された。最後に会った八年前と変わらない細身を、今日は真っ白なドレスに包んでいる。ティアラを載せた髪は複雑に編み上げられて、これから被さる予定のベールが毛先を飾っていた。  物憂げな詩織の横顔を最初に写した慎一は、続いて全身像にレンズを向けた。二枚撮るとホワイトバランスを調整して再びシャッターを切る。結婚式場のカメラマンに芸術性は求められないが、どうしても一枚だけ、ウェディングドレス姿の詩織に似合いそうな色合いの写真を残してみたかった。 「良いですね」  顎や口の端の角度、歯の見せ方を細かく指示した結果作り上げられた表情が、その一言で自信を得たように華やいだ。同じ言葉を何度もかけてやれば、最初の複雑な感情は消えてカメラマンと花嫁という関係が構築される。慎一は一心不乱にシャッターボタンを押し続けた。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!