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23.今度こそ彼女を手に入れる
目が覚めた時、小さくなった手を見て理解した。女神が口にした「やり直し」の意味は、過去に戻された者による新しい未来の構築だ。前回の未来はすでに確定しており、今回はまだ不安定だった。
誰かの行動ひとつでまったく別の未来が訪れる。剣蛸が薄い手のひらはまだ皮膚が柔らかい。あれだけ頑張って研鑽した剣技も体力も失われた。新しく構築し直そう。幸いにして、前回の記憶が効率的な鍛え方を教えてくれる。
ぐっと拳を握って起き上がり、身支度を整えた。侍女や侍従がすべて準備するのは伯爵家以上か、商売に成功した一部の者だけ。我が家は男爵家で食べるに困らないが、家族全員に個別の使用人がつくほど裕福ではない。
「おはようございます、父上、母上」
青ざめた両親に挨拶する。同じく記憶が蘇っているらしい。何も知らない使用人が用意した朝食に手をつけず、俯いていた母が深呼吸してから顔を上げた。
「今度は間違えないでちょうだい。あんな恥知らずな女に唆されて、失敗する未来はもうごめんよ」
前回のことか。俺は近衛騎士となるべく訓練し、学力や礼儀作法も身に付けた。天使に出会ったのだ。美しさを競う貴族令嬢の冷たさの中で、温かさを失わない彼女こそ天使だった。
俺の子を宿してくれた。王太子にバレたら殺されると忠告した俺に、愛した人の子を宿すのは女の幸せよと笑った。あの天真爛漫なドロテに再び会える。それだけで、前回のあの不幸が報われる気がした。
手を伸ばしてパンを掴み、千切って口に放り込む。礼儀作法と学問は、記憶のある今回は省くことが可能だった。その分の時間を鍛錬に注ぎ込もう。前回より剣技を磨き、彼女を娶れる強い男になる。
「わかっています、二度と失敗はしません」
今度こそ彼女を手に入れる。王太子など近づけない。それに公爵令嬢は無視しよう。前回首を刎ねたことで気持ちは収まった。近づいて危険を呼び込む必要はない。フォンテーヌ公爵家が万全の守りを固めるはずだ。何より王家は、どうしても公爵令嬢を手に入れる必要があった。近づかなければ安全だ。
今のうちに婚約者としてドロテを囲い込むか。平民の少女なら簡単だった。だが父と母が反対する。それに貴族家の養女にしてしまえば、王太子に目をつけられやすくなる。かつて主君にと望んだ男は、最後にドロテを見捨てた。彼女が処刑される日も顔を見せなかった程度の愛情しかないのだ。二度と近づけさせない。
どうやって彼女を俺の物にするか。どこに隠すか。動くなら早くしなくては、現時点で平民の彼女を守る盾は俺だけ。パンをスープで流し込み、無言の父に視線を向けた。
母の実家である子爵家からの支援を餌に、その身を売った弱気な男だ。男爵の名を継承しながらも、剣すら握ったことがない。文官として名を残す功績もなかった。軽蔑の眼差しを瞬きで隠し、俺は立ち上がる。
「今回は失敗しないため、鍛錬に集中します。では失礼」
後ろで母が甲高い声で何かを叫んだが、無視した。早くドロテを迎えに行かなくては……隠す場所は手に入れてから考えればいい。前回彼女を知ってしまった連中が手を伸ばす前に。
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