02.浅ましいと知りながらも

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02.浅ましいと知りながらも

 眠ったコンスタンティナの頬に掛かる金髪を、優しく整える。指先が触れた肌の柔らかさに、どきりとした。欲が芽生える己があさましく思える。彼女を見捨てた前回の罪はそんなに軽くないのに、許されて触れたいと願ってしまった。 「俺はさ、お前がそうやって引くたびにティナが悲しそうにするのを見てきた。気づいてるんだろ?」  リッドの言葉に俯く。とっくに気づいていた。いつも見てきた人だ。前回、どうしてあんなに簡単に諦めたのか。王太子から奪えばよかった。そうしたら悲劇は防げて、この人は自分だけの妻だったのに。夜会で彼女を攫って逃げていたら、世界はどうなっていただろう。  今回のような平和は望めなかったな。バルリング帝国も、ランジェサン王国もそのまま独立を保ち、ジュベール王家を滅ぼして侵略した可能性もある。祖父の代の小国の遺恨を経験した父は、ジュベール王国を許さない。私がフォンテーヌ公爵令嬢を諦めず望んだら、戦をしてでも奪ったはず。  今回もそうだ。最初から妻に欲しいと動いていたら、結果は全く違っていた。それが良い方向へ転んだか、悪い結果を招いたか。判断は出来ないが、少なくとも今の状況はなかった。 「気づかないフリをした」 「知ってるよ」  ぼそっと吐き捨てて、リッドは私の肩を叩いた。 「ティナはたぶんさ、俺よりカールを愛してるぞ。ちゃんと話し合え。じゃなかったら、俺が奪って逃げるからな」  出来もしないのに、そんな脅しをかけてくる親友の気持ちが嬉しかった。眠ったコンスタンティナの頬に指を添わせる。部屋を出ていくリッドが、外でシルヴェストル達と話す声が聞こえた。入室を求める親族を「後で」と追い返す友人に感謝する。  今は彼女を静かに見守っていたかった。  隣室に運ばれ乳母がついたリッドとティナの子を見るため、人々が移動する気配がする。廊下の前が静かになって、シーツの上にあったティナの手を握った。自らの額まで持ち上げて触れる。甘い匂いに少しだけミントが香った。  侍女に体を清められ眠る女王コンスタンティナは、周囲が求める役目を果たしてきた。この細い肩に重荷を乗せ、人々が統合される象徴として微笑み続ける。支えたいと思う気持ちに嘘はない。だがこの手が、この人を抱くことは許されるのか。 「愛して、います。ティナ」  己の禁じた告白を、意識のない美しい彼女に捧げる。愛している、誰より。親友リッドを得難い存在で大切に思う反面、羨ましくて妬ましかった。皇位を継ぐため学んだ知識を駆使して、義父クロードや実父のサポートを受けながら、ティナの治世を支える。それが役目だと言い聞かせてきた。 「あなたに……触れたい」 「触れてください」  細い声で答えが返り、祈るように額に当てて目を閉じていた私は驚いた。目覚めた美女は緑の瞳を細めて、どこまでも美しく微笑んだ。ああ、私の願いは叶っても、罪は許されてもいいのか?
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