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91.同じ轍を踏まぬための公国
豪華な夕食を終え、集められた重鎮は渋い顔で隣室へ移動する。客間のソファに思い思いに腰掛ける人々の中で、コンスタンティナは父親の膝に座った。手招きされたのもあるが、一番問題がない場所だからだ。
宰相ジョゼフ、文官のフェルナン、国防軍のダヴィド、エルネスト。向かいに兄シルヴェストル、客人のカールハインツ、アルフレッド。豪華な顔ぶれを見渡す位置にクロードが座り、その膝でお淑やかに膝を揃えて甘えるコンスタンティナ……なんとも形容しがたい光景だった。
「お父様の計画は未遂に終わりましたの。中止ですわ」
にっこり笑って、他国に先んじる予定だった父の計画を一刀両断する姫君に、男性達は顔色を失った。計画を知っていた年配者はもちろん、知らされなかった若者も。一番年下で未熟なはずの私が中止を宣言するなんて、不思議なめぐりあわせね。
「よろしいのですか? クロード様」
元オードラン辺境伯ダヴィドの言葉に、クロードは苦笑いした。
「娘のための計画を本人が中止しろと言うのだ。強行は出来ぬ」
「無理が過ぎましたよ、父上」
妹に父が何か計画していると知らされて調べたシルヴェストルの、呆れを滲ませた口調に肩を竦める。膝の上で寛ぐ愛娘の金髪を撫でながら、己の短慮さを悔いた。あのまま暴走して計画を実行していたら……可愛い娘を嘆かせるところだった。
あの時は正しいと思った判断が、今では無謀に感じる。前回の痛みはまだ癒えておらず、故に愚かな計画を立てたのだろう。考えてみたら、メンバーが全員前回の記憶持ちだった。これでは目が曇った者同士冷静になれず、互いの違和感を見落とすのも仕方ない。
「どのような計画だったのか、お伺いしても?」
カールハインツがゆっくりした口調で切り出す。緊張を誤魔化すように唇を軽く舐める仕草に、まだ若いと年配者は余裕を見せた。ジョゼフが視線で尋ねる。頷くクロードに従い、説明役はジョゼフが引き受けた。
「バルリング帝国とランジェサン王国、どちらか、または双方を切り捨てる気でした」
強国に左右を挟まれたフォンテーヌ公国は、貴族連合だ。ひとつずつ家を切り崩していけば、解体が可能だった。策略や謀略に長けたバルリング帝国、武力と結団力に優れたランジェサン王国。どちらが調略に乗り出してもおかしくない。
「王国にすればよかったのでは?」
新たな王を立てることで、貴族は結束する。そう匂わせたアルフレッドに、クロードは首を横に振った。
「それは出来ぬ。なぜなら……わしはシルヴェストルを王にする気はない」
「私もお父様に賛成ですわ」
力量がないのではなく、信頼していないのでもない。遺していく我が子に重荷を背負わせたくなかった。己の子孫がいずれ腐り、愚かな王族として倒される未来は望まない。何より、民のためにならないと分かっていた。
「王家が世襲制になるのは、権力が集中するからです。ならば、最初から分散させればよいと考えました」
ジョゼフが再び説明を始めた。権力をある程度分散させ、各家がそれぞれを見張る。抜け駆けして王位を望んでも、周囲がそれを許さない土壌を作ることが目的だった。ジュベールはすでに失敗したのだから、同じ轍を踏む可能性を減らしたい。
公国ならば貴族連合として残せる。その維持を阻む強国があれば、どちらかを取り込むか潰すか。あるいは両方を噛み合わせても消し去るのが、クロードの計画だった。
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