99.荷が重すぎる提案

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99.荷が重すぎる提案

「本当に驚いたわ」  苦笑いが浮かぶ。あの後話し合いと銘打った飲み会が始まり、お父様達は意気投合した。翌朝になっても、誰が多く飲んだかで揉めながら酒瓶を離さず……しばらくしてクリスチャンが様子を見に行ったら、全員潰れていたらしい。 「父が悪かったね」 「我が父の振る舞いも詫びよう」  リッドとカールの言葉に、表情が和んだ。別に迷惑じゃないわ。うちのお父様も酔って暴言くらい吐いたでしょうし。 「お互い様よ」 「そう言ってもらえると安心できる」  ほっとした表情を浮かべたのは、カールハインツだ。皇太子として厳しい父の顔しか知らない彼は、本当に驚いたらしい。予想外の事態だもの。まさか両国ともこの情勢で頂点の地位に立つ人が出歩くなんて。 「もうひとつの方だけど、身勝手な提案でごめん」  アルフレッドは父王の発言に恥じ入った様子で俯く。そう、こちらも想定していなかった提案で驚いたわ。カールも苦笑いするけど、後ろのアリスは得意げな顔で微笑む。さきほど……私のお嬢様なら当然と呟いてたの、知ってるけど。 「困るけれど、どうしたらいいのかしら」  大陸の半分近くを治め、政略結婚で懐柔策に出るランジェサン王国。圧倒的な軍事力で領土を広げたバルリング帝国。どちらも大陸制覇に乗り出せるだけの国力を誇る大国だった。なのに……。 「僕は父の案は悪くないと思うんだ。平和になるし、僕は大好きな君と結婚できる」  アルフレッドは謝った舌の根も乾かぬうちに、けろりと自分勝手な発言をする。軽い口調だけど、その目は真剣だった。本気で提案に乗る気なのかしら。 「私としても……君を独占出来ないのは辛いが、結婚できないよりいいよ」 「冗談よね?」  二人とも、そんなこと――笑い飛ばそうとして、真剣な彼らの表情に言葉を飲み込む。  提案を最初に口にしたのは、アシルだった。国が複数あるから揉める。その原因を取っ払ったらどうだと、軽い口調で国の存亡を秤にかけた。意外にも賛同の声を上げたのは、バルリング帝国の皇帝だ。反対ではなく同意した。  この時点で大陸の二大強国が方向を示したことになり、クロードは目を見開く。考えたことはあったが、他国の思惑まで左右することが出来ない以上、無理だと諦めた。その無謀とも呼べる案が現実化しようとしている。 「本気だよ」 「私も賛成だ。国同士の牽制や諍いで失われる命が減る」 「あと産業も発展するんじゃないかな」  共通政策がとれる。各国で囲ってきた技術を開放したら、民が豊かになるよ。高度な政の話が飛び出すけれど、最後にこの部分に戻った。 「それに、僕は君を諦めたくない」 「私も同感だ」  溜め息を吐き出す。何でこんなことになるのかしら。私は小さな国の王太子妃で終わるはずだったのに、女王になって彼らを夫にすべきだなんて――。荷が重すぎるわ。
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