咲う鬼嫁

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「なんだあ? 鬼ってのは旦那様じゃなかったのかい。それとも出て来たのは旦那だったのか」  俺はあぐらをかいた足の上に片頬をつき、女の長い身の上話を聞いていた。  ようやっと終わった話の顛末は、想像していたものと違った。てっきり酷い男に嫁いでしまったという愚痴だと思っていたのに。 「やって来たのは鬼ですよお」  女は裸に着物を羽織った姿で横になっている。その鬼とやらと会った時のことを思い浮かべているのだろうか。こちらに顔を向けたまま、うっとりと目を細める。  どういうつもりで、こんな話をしたのだろう。俺を怖がらせたかったのか。それにしては、肝心の部分が不明瞭でちっとも怖くない。 「そいつはどういうこったい。まさか、本当に鬼が現れたわけじゃあるまい」  笑い含みに言うと、女もクスクスと声を漏らした。  俺の問いには答えずに、女は片肘をついて起き上がる。肩にかけていた着物が滑り落ちた。乱れた髪が一筋垂れて、鎖骨を這っている。鎖骨からゆっくり視線を上げていくと、女の口元へ辿り着いた。  薄い唇が開かれる。ザクロのように赤い舌と一緒に、ねえという言葉がこぼれた。 「少し、寒くはないですか」  ちろちろと動く舌から更に視線を上げて、目を見た。切れ長の目とかち合ってしまい、逸らすことができない。
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