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「先に誘ったのはアンタさ。道の端で俺をじいっと見つめていたじゃないか」
肌がしっとりとして見えるのは、女が汗をかいているからか。俺は言い返しつつも、女の膨らみから目を逸さなかった。しかし、女の腕が動いて隠れてしまう。
女は板張りの床を、手の平で撫でた。埃が付いた手を持ち上げて、ふうっと息を吹きかける。唇からわずかに舌が覗いた。唇が青白いので、舌がやけに赤く感じられる。
「そうねえ。酷い男ですよ」
女は先程の問いに答える。言葉とは裏腹に、口元を愉快そうに綻ばせていた。
「随分な物言いだなあ」
大して興味などなかったが、他に話題もないので話に乗っかってみる。事が済んだのだから、さっさと出て行ってもいいが、何となく立ち去りがたかった。
「だって」
吐息と共に溢しながら、細い指が床をなぞる。愛撫するようなその動作に、俺はまぐわっていた時の感覚を思い出した。ごくりと喉が鳴る。
だって、と女は繰り返した。
「私の旦那様はね」
ーー私の家族を殺した人喰い鬼なんですもの。
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