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相手は山を越えた先の村の、大店のご主人でした。ひと回りも年上の方で、私の前にも何人か奥方がいたそうです。あんまり詳しくは知らないですけど。
だってねえ、聞けませんでしょ。ただ、亡くなったって訳じゃなさそうでした。
あの人はどこで私を見初めたのか、いきなりやって来て縁談を申し込んだのです。私も驚きましたが、叔母さん達も驚いてました。相手の家は大きくて良縁ではありましたけど、私はお断りするつもりでした。
何故って、妹のことがありましたから。病床の妹を置いて行くなんて、できません。
そしたらね。あの人は妹の治療費なら自分が出してやると、こう言ったんですよ。
私は迷いました。妹のそばを離れるのは嫌だけれど、私の力ではあの子をお医者様に診せることすらできない。このまま私がそばにいたって、あの子が良くなることなんてない。
だったら、私は大店のご主人のとこへ行って、治療してもらった方がいいのじゃないかって。
叔母さん達に妹を任せるのは心配だったけど、私はあの人のもとへ嫁ぐことにしました。
妹にも縁談の話はしましたが、行かないでくれと引き止められました。自分で箸を持つことすら一杯一杯だというのに、妹は起き上がって私の腕に抱きついてきました。
姉さんがそんなことしなくていい、自分は大丈夫だからって。どうか本当に好いた相手と結ばれてくれって。
でも、そう言い募る妹の声は蚊が鳴くように小さくて、顔なんて血の気がなく真っ青で。とても大丈夫なんかじゃなかった。
このままになんてしておけない。やっぱり妹は治療を受けさせなければ。
妹の弱った痛々しい姿に、私は決意しました。
そうして、私はあの人に嫁ぐことになったのです。
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