咲う鬼嫁

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 あの人のお屋敷は、そりゃあ立派なものでしたよ。使用人もたくさんいましてね。何だかよく分からないけど、色々な置物も飾られていました。  最初のうちは屋敷の豪奢な威圧感に圧倒されましたけど、奥へ進むにつれて胸が弾んできました。  今日からここが私の家になるんだ。こんな立派なお屋敷が、私の家なんだって。もう妹に不自由させなくてすむ。叔母さんだって、きっと意地悪をしなくなるに違いないって。  足取りも軽く廊下を渡っていると、案内をしていた使用人の娘が襖の前で立ち止まりました。どうやらそこがご主人がいる部屋のようでした。  実を言うと、ご主人とはこの時に初めて顔を合わせたのです。縁談を持ってきたのは使者の方でしたし、本人が村に来ることはなかったので。  だから、私は相手の名前と、大店の主であること、年齢、そんなことくらいしか知りませんでした。  そりゃあ緊張しましたよ。この襖の向こうに、私の夫がいる。そう思うと心臓が早鐘を打ちました。使用人の娘が旦那様と呼ぶと、中から入れという声がしました。  ああ、やっと会える。  私は胸を高鳴らせて、でも失礼のないように、落ち着かせてゆっくりと襖を開けました。  座敷にいたのは中年の男の人でした。濃い紺青の着物を着た、彫りの深い顔立ちの方です。鼻梁はすうっと通っていて、目は切れ長で。何だか役者のような、整った面の人です。  私はね、体が固まってしまって、座敷に入ることができませんでした。  いえ、そうじゃないんですよ。上がってしまって動けなくなったんじゃありません。その、なんというか……座敷にいたのはご主人だけじゃなかったんです。
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