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座敷にはもう一人、女の人もいた。女の人の顔はよく覚えていません。というか多分、ちゃんと見れなかった。まじまじと見る余裕なんてなかったんです。
ご主人と女の人は、ただの知人ではありえない程、密着していました。女の人はご主人にしな垂れかかっていて、ご主人は女の人の腰を抱いていた。まるで、恋人同士みたいに。
二人は私がいることには気付いているはずなのに、一向にこちらを見ようとはしませんでした。私はあまりのことに絶句してしまって、石を呑んだように動けなくなってしまった。
見かねた使用人が、旦那様と声をかけたんです。それで、やっとご主人はこちらに視線を向けました。
ご主人は興味なさげに、分かったとだけ言いました。後はまた女の人と二人だけの世界ですよ。
その女の人はなんて言うんでしょう……情婦? お妾? そういう人だったんですね。
ええ、その、ご主人は別に私に惚れたから求婚したわけじゃなかったんです。適当な女房役が欲しかっただけなんでしょうね。実際、言われましたよ。
え? いいえ、本人じゃなくて。他の家の者や、使用人なんかから。
みんな了解していたんですよね。ただのお飾りの妻だって。
私だけが知らなくて、一人はしゃいでいたんです。
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