咲う鬼嫁

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「私の旦那様は、鬼なんですよ」  気怠(けだる)い体を起こし、拾い上げた着物を着ていると、背後からそんな言葉がかけられた。振り返るとまだ裸のままの女が横たわっている。乱れた髪を整えることもせず、ぼんやりと(すす)けた天井を眺めていた。 「なんだアンタ。人妻かい」  俺がさも意外だという声を出すと、女はふふふと笑う。  飛び抜けた美人というわけではない。どこにでもいるような女だ。吊り目がちで、細面。唇は薄く、血の気が失せている。床に脱ぎ捨てられている着物は、地味な枯れ草色だ。  華美さもなく垢抜けないこの女を、俺は上京したばかりの田舎娘だと思ったのだ。それが人妻だとは驚いた。 「火遊びするたあ、悪い嫁だな。こんな空き家に連れ込んでさ。しかも、鬼ときたもんだ。アンタの旦那はそんなに酷い男なのかい」 「連れ込んだのはそちらでしょう」  女はごろりと向きを変えて俺を見る。白いほのかな膨らみが目に入った。 「遊ばないかって私に声をかけてきたのは、お兄さんの方じゃないですか」
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