3-3.山地の祓人

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 これについては御嶽も舌を巻く。眉間に(しわ)を寄せ、うーん、と頷く。 『凄いな、ナデコ。』  “観る力”を無意識に使うから、オンとオフがまったくできない。やっている感覚が撫子には無いから、“今、観る力で【観稽古】をしている”という感覚も無い。 【飴細工】は進展が無い。 【観稽古】は意識的に使うことが出来ない。  それぞれがそれぞれで欠陥を抱えている。  撫子の日常は変わった。  家族が亡くなり、友人とも顔を会わせられなくなった。妖怪が見えるようになった。  今の撫子の日常は、御嶽や笠神、つまり人でないものと殆どの時間を過ごし、これまで漫画やアニメの中でしか見なかったようなファンタジーチックな、【飴細工】、“観る力”による【観稽古】の練習をする、というようなものへと変わっていった。  当の撫子はというと、 「……ねえ御嶽、神さま。」 『ん?』 『な、に? なんだい、どうした、ナデコ』 「あたし、進歩してってるよね。」 『もちろん。』 『もっち、の、ろん、だよ、ナデコ。』  撫子は返答をきいて少し笑う。  こんな日常に戸惑いは減り、充実感を感じていた。  そんなある日の朝。  撫子、御嶽、笠神の三人はいつも通りバスに乗る。  すでに座席に座っている琴弾と刑部。  琴弾は猫背にしてスマホをタップしている。彼女はこの頃、ずっとこうだった。撫子が乗っても気付かず、ずっとスマホをいじっている。  刑部はそんな琴弾へポツポツと話しかけているが、琴弾はほとんど言葉を返していない。 「……。」  撫子はそんな二人を見ないように、一番後ろの席へと座る。  すると次のバス停で妖怪が二体が乗車してきた。いつの日かバスの中で騒いでいて、御嶽に少し注意された子供の姿をした河童だ。 『あっ、ナデシコっ!』 『いたッ、ナデシコッ、ナデシコだ!』  河童は撫子を見や否や声をあげて駆け寄る。御嶽は目に見えて煙たい顔。 『おっととお二人さん、しずかにね。』  御嶽は河童の顔を見る。  この前の楽しそうなそれではなく、どこか危機迫っている顔。困っている顔。  撫子は窓側席に座ったまま、少し身を乗り出して口を開く。 「どうしたの?」 『えっとね、えっとね、困ってるんだ!』 『ザクザクでっ!、ゴニョゴニョでっ!、キラキラのバーンっ!、って!』  要領を得ない説明。  撫子は少し眉を寄せる。  そして撫子の瞳が飴色に輝く……その前に、御嶽は撫子の目線へ手を割り込ませる。 『観ない観ない。少しは気を付けなって。目線は窓へ向けておいてよ。ほらっ、はやく。』  促され、目線を窓の外へとやる。
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