3-3.山地の祓人

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 笠神が指差した先、つまりはスカートのポケット。撫子はポケットからそれを取り出す。  それはスマホだった。  透明なプラスチックのスマホケースに入っていて、そして端に小さな巾着状の御守りが付けてあった。 「うん。せっかく笠神さまがくれたから、持ってようと思って。」 『……あっ。あのときの、あれ、か。』  御守りの中身は、以前に笠神がくれた小石だった。撫子が悪夢を見て眠れなくなった夜、撫子と笠神がふざけあい、その中でもらった小石。大きさは小指の先ほどで、少し平べったい。  ストラップ型の御守りは昔から持っていたので、それを思い出して中に入れてみたところスッポリと入った。だからなんとなく持ち歩くことにした。 「御利益あるかなぁ。」 『あるよ、あるよ。きっと、ある。』  二人の会話を羨ましそうに見ている御嶽。  御嶽は話に割って入る。 『ナデコちゃんボクは? ボクから何かあげたら持ち歩いてくれる?』  自ら持ち歩かせようとするその姿勢にドン引き。 「生々しくてキモいんですケド。」  そして放課後になれば神社に行って、【飴細工】と、そして少しだけ【観稽古】の練習。  撫子は毎回、神社に行く度に奉公をした。  例えば掃除をした。  お供え物を持っていった。  手を会わせて御参りをした。  御嶽は機嫌が良くなる。  あれこれしている撫子をニコニコしながら見ている。 「御嶽も手伝ってよ」 『それじゃあ意味がないんだってば。』 「ムカつく。」  なかでも掃除に関して、撫子はとても力を入れていた。 『(やしろ)は止めてね。』  止めるというよりはやる以前の問題で、(つた)がすごく、おまけに朽ちかけているので、掃除なんてとてもじゃないができないだろう。縁側に立とうものなら床が抜けるに違いない。  それに、撫子は言葉にできないが、“この社はこのままの方が美しい”とも思っていた。自然と調和しているようで、見ていると落ち着く。 『あっ、社の中を見るのも止めてね。』  言われて気になり、御嶽の注意を無視して本殿の戸を開けたことがあった。朽ちかけなので、 「それっ」  撫子は力ずくで開けた。  拝殿も、本殿も、空っぽ。つまり何もなかった。神具や棚すらも無い。 「(御嶽はどこから食器を持ってきてるんだろう)」  という疑問は置いておいて。  屋根に大きな穴が空いていて、薄暗い中に一筋の光の線があるように見える。雨水に侵食され、天井は波紋状に朽ちている。その水が床に垂れるもんだから、床も穴だらけ。 『ね、だろう?』  御嶽はどこか悲しそうに笑う。
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