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何はともあれ練習だ。
撫子は【飴細工】を使う。
その日に出したのは野球ボール。
「それっ」
投げるが御嶽の手を透過してすり抜ける。
『なるほど。一応、投げることもできるのか。』
撫子は【飴細工】を使う。
その日に出したのはグローブと野球ボールだ。
撫子はグローブをつけ、ボールを真上へ投げて、そしてキャッチ。
『グラブで取っているように見えて実は素手で取ってはいない?』
撫子は【飴細工】を使う。
その日に出したのは一メートルほどの板とスーパーボールだ。板をパタンと地に倒し、その上へスーパーボールを落とす。
撫子の出した板の上では、スーパーボールはピョンピョンと跳ねるが、その枠外、すなわちただの地面につくと全く跳ねずにそこへ留まる。
『……ふむ。』
撫子は【飴細工】を使う。
その日に出したのは手のひら程のコマと紐だ。
撫子はコマの下部分を紐で巻き、ピッ、と弾くようにして回す。
空中では確かに回転していたコマは、地面に触れた途端に回転を止める。
『うーん……』
御嶽は考え、顎に手をやる。
撫子は溜め息。
「マヂ、無理なんだケド……」
どんよりと落ち込む撫子を笠神が励ましている。
『大丈夫。大丈夫。その、うち、ね。できる、よ』
「むぅ~。」
撫子は御嶽へ口を開く。
「なんかコツとかないの?」
『そんなの分かるわけないでしょ。鳴き方を教わる獣はいない。翔び方を教わる鳥はいない。こればっかりは自分でやるしかないんだ』
「失敗の連続はサスガにシンドイんですケド。」
【飴細工】に関しては進展が無かった。
しかし【観稽古】に関しては別だ。
『ナデコちゃん、こっちはスゴいね。』
撫子は“観る力”で観て、それが可能であれば【観稽古】で再現してみせる。手本は御嶽と笠神だ。
撫子はその結果、指で擦る動作をすることで火花を発生させたり、触れたものを湿らせたり、またほんの数秒だが触れた物を真っ暗にするなど、そんな殆ど日常生活では役に立ちそうにない事ができるようになる。
『どうやってやっているかは分かっている?』
【観稽古】を成功させる度に御嶽はその理屈を撫子へ問う。
火花については、
「火打ち石。指と指の間に、えっと、れいりょく?、を固めて、シャシャッ、って擦る感じ。」
触れたものを湿らせることについては、
「笠神さまがやってた通りだよ。れいりょくってのを空気に溶かして、水分を集める。」
触れた物を真っ暗にすることについては、
「イメージが伝えづらいんだけど……えっと、何て言えばいいのかなぁ。物に当たる光を吸い取る感じ?」
撫子はあっけらかんとした顔で説明する。
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