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4話 ひみつ
ゴミ箱を蹴り上げる音がする。
金属でできたゴミ箱は、べこりとへこんで、薄暗い教室の隅に転がった。
ここは旧校舎の教室になる。
物置と化したこの場所なら、秘密裏に集まっていても、誰かに咎められることもない。さらに時刻は夕方。新校舎にも生徒はほぼいないだろう。
「あー! マジ、むかつく! あたしが会長落とせないなんて、ありえないしっ! あの騒ぎで辞めさせないってのも、ありえないんだけど!」
叫び声に似た声を上げ、今度は近くの壁を蹴り上げた。
床をダンと踏んだ彼女は、山下瑠々、だ。
「そんなに怒っても現実、かわんないっすよね」
宥める男は、1年の関原優慈。
彼は俳優を目指しているモデルだが、1度舞台に出たきり、なかなか露出の場がないのだ。
事務所には、もっとできる俳優、モデルがいる。優慈がオーディションに出たくても、話が回ってこない、という状況もあり……
だからこそ、どうにか足掻こうとした結果が、ここにいる理由だ。
「ユージ、あたしがあそこまで仕上げるのにどれだけ労力割いたと思ってんのよ! 会長の力は認めるけど、螢がなんで残れんの!? マジ許せないっ!」
「そんな愚痴聞くために、俺、呼ばれたんすか?」
「違う! 案が浮かんだの。協力しなさい!」
「はぁ……。ま、いーっすけど、今度こそ、それにかんだら、俺、来年、会長になれます?」
「させてやるわよ、私が! 私のこと、誰だと思ってんのよ!」
「へいへい。……俺が会長になれば、事務所も押してくれんの間違いないんで、我慢します、はい」
瑠々は人脈もさることながら、権力も持ち合わせていた。
たしかに可愛い系ではあるが、雑誌を網羅するほどモデル業ができているのは、父親のコネクションが大きいだろう。
不動産業を営む父親は、顔が広い。
もうひと押し、となれば、父親が雑誌のスポンサーになることで瑠々は表紙に載ることができた。
そこで知名度と人気を広げていったのだ。
瑠々は、周りからどんなに妬まれようと、恨まれようと、使えるものはとことん使い、今まで人生を楽しく上手に立ち回ってきた。
だが、それが全く上手くいかなかったことがある。
人生で、初めての挫折とも言えるだろう。
それは、生徒会の副会長になれなかったことだ。
瑠々が選ばれるように、あれほどうまく立ち回っていたのに、なれなかった。
樹は、多数の推薦があった瑠々を頑なに断り続けたからだ。
それこそ、会長の立場すら危うくなるほど。権力と権力がぶつかれば、そうもなる。
だが樹のオーラで押し切った。押し切られたのだ。
独断で、ただの学級委員長だった早見螢を、副会長に決められた。
それならと、瑠々は螢に取り入る作戦に。
こうでもしなれば、瑠々は会計に入ることすら叶わなかっただろう。
「……で、実行は、いつ、するんすか?」
「今週の金曜日の夜を、決行日にする」
「近いっすね」
「急ぎたいの。地盤が緩いうちに、叩きたい! だからそれまでに人数集め、しっかりやってよね」
「へいへい」
受け取った用紙を見ながら、優慈は小さくため息をつく。
すべて、自分の将来のためだが、こういうやりとりは全てSNSで片付けたい派だ。
だが瑠々はそれをしない。
理由は、『どこでそれが流出するかわからないから』
たしかに、誰かに誤爆で送ってしまうこともあり得ない話ではないし、送信したつもりで未送信だった、なんてことも困る。
そこまで怖がる理由も、すべて彼女の立場があるからだろう。
もしここで自分が裏切ったら───
優慈は思うが、その先を想像するのはやめた。
悲惨な未来しかないからだ。
この業界にいたいなら、コネでもなんでも使っていけ!
優慈はもう一度口の中で呟いて、受け取った用紙を胸ポケットにしまい込んだ。
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