8話 あれから

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8話 あれから

 樹と螢は、1日検査入院。その後、すぐに退院できたが、学校への登校は、できていない。  理由は簡単だ。  陽菜の熱弁は虚しく、暴力事件加担者として、2人ともに停学となっていた。  確かに相手が悪いのは間違いないのだが、生徒会の人間が、人を殴ったことが問題だったそうで。  よって、生徒会は解散、再度選挙を行い、引き継ぎ期間を経て、新生徒会発足の流れになるという。 「……ヤバ……なんか、胃が痛い」  螢はざんばらだった髪を美容院で整えてきた今日は3日目。明日から学校と思っていた螢だったが、担任からの連絡で、あと2日、停学が続く連絡があったのだ。  そのため、螢の不安がMAX!!!!  だが、夕食時の父親がはっきりと言い切る。 「この程度のことは、世の中よくある!」  その声に、螢は少し顔をほころばせた。 「……父ちゃんもあったの?」 「……」 「父ちゃん……?」 「……ん……螢、停学なんて、少ないことだが、無いわけじゃない。だいたい、こんなことで、螢の人生がすべて台無しになることもないから、安心しなさい。それに、螢は悪くないしな。生徒会の人間で、殴ちゃったことが、問題なだけだから……」 「アナタ、螢にケガさせようってことだったんだから、立派な殴る理由じゃないの! いいのよ、螢、殴って正解!」 「……いや、本当は殴っちゃダメだよね、母ちゃん……」  螢は父の言葉に救われたが、母親の言葉もありがたく思う。  どちらも、螢の味方には違いない。  両親の優しさに触れながらも、ただただ延長された停学が、悪い方向に向かってなければと祈るばかりだ。  すぐに、停学最終日が来たが、停学については心の整理はついた螢だが、別な問題が残っている。  樹だ。  考えても考えても答えは出ず、直接聞こうにも、グループメッセージで送る話ではないし、ましてや、樹本人に連絡するなど、もっての外!!!  しかしながら、どう切り出せばいいかもわからず、気をぬくと、ぽろりとため息が落ちてしまう。 「螢、不安よね。でも、母ちゃんは味方だから!」  豪快に笑う母親に、螢もつい笑ってしまうが、 「母ちゃんと、カフェでも行く?」 「ありがと、母ちゃん。でも、一応、停学だから、そんなプラプラできないよ」 「病院の帰りって言えばいいし! 行こーよー。母ちゃん、お昼作るの面倒なのー」 「そっちか……」  登校日の今日だが、前日の連絡で、なぜか放課後に登校しなければならない上に、教室ではなく、学長室に行けとの担任から電話が入っていた。  理由は学長が話すの一点張り。  不審に思いながらも、ノックをして入った部屋には、すでに樹がいる。 「おー、来たね。いやー、今回は災難だったね。で、停学と言っていたが、停学ではなく、休みの扱いにしてある。生徒会もそのまま活動して欲しい。以上!」  有無も言わさず追い出された学長室を背に、螢は眉をひそめる。 「……会長、どういう事かわかります? 何が起こってるんです……?」 「大丈夫だよ、麗しの副会長くん。何も問題はない。停学は免除、生徒会もそのまま、いい事じゃないか」 「……はぁ」  相変わらずの樹に、螢の変な緊張は溶けかけるが、樹を見ると、守ってもらったときの背中を思い出し、顔が赤くなるのがわかった。  だが、もう隠すための髪の毛もなければ、メガネもない。メガネを外した理由は、ショートヘアにメガネだと、メガネだけが浮いて見えたからだ。  慣れ始めたコンタクトに気遣いながら、頬をバチりと叩いたとき、樹が自身を見ていることに気づく。  久しぶりに見上げた樹の背の高さに圧倒されながらも、なんとか声を出した。 「ななななんかついてます?」 「いや。1週間ぶりに会えて嬉しくてね」 「……まーた、減らず口を」 「ショートヘア、やっぱり似合ってる。メガネがないから、綺麗な君の顔がすべて見られて嬉しいよ」  爽やかに笑いかけながらの発言。  螢は自身の顔が蒸発したかと思った。  慌てて頬を撫で、額の汗を手で拭うが、もう一度、樹を見上げる。  ──あの人、なんだろうか………  ホクロの位置は見間違えではなかった。はずだ。  今は制服で見えないが、間違いななく、パウンドを取っていた樹の首筋に、3つ、ホクロが浮いていた。  思い出すだけで、汗をかく自分を殴りたくなるが、螢は呼吸を整え直す。 「どうしたんだい、僕の副会長くん。なんだか、いつもと雰囲気が違う気がする。髪型のせいかとばかり思っていたが、具合が悪いのかい?」 「……いえ。久しぶりの学校に、ちょっと緊張してるだけです……」  嘘だ。  すべて、生徒会長の樹のせいである。  昨日など、ついに瞼を閉じるだけで、樹の殴る姿がリフレインしだし、ほとんど眠れていない!!!  自分のことに怒ってくれたあの凛々しい顔が重なれば、もう心臓がギュッと握られたような気持ちになるし、そこに一目惚れしたあの日が繋がり……  どんな顔をして会えばいいのかもわからないという心と、矛盾して会長に早く会いたいという気持ちがせめぎあい、この5日間は、実は苦しい日々だった── 「さ、今日から新しい生徒会だ。早く、みんなに挨拶に行こう」 「新しい?」 「会計が変わったからね」 「なるほど」  螢はそれ以上、言及しなかった。  瑠々がどうなったか、気にしても無駄だと思ったからだ。もちろん、SNSも見ていない。  ただ、間違いなく言えることは、今消えても、近い未来で芸能界に復活するだろう、ということだ。  瑠々の根性なら、必ず地底からでも、這い上がってくる。  2人で歩きだした廊下だが、放課後なだけあり、人の視線が多い。  腕を組みながらいつも通り大股で歩くが、スカートを短くしたのを思い出し、少し歩幅を狭くした。  髪型とのバランスを見たとき、ブレザーとスカートの割合を調整。結果、短めのスカートにしたのだが、これも気になっているところではある。  今、当校の流行りは膝下スカート。螢は膝上だ。 「お久しぶりです、螢先輩。あ、スカート短い。ショートヘアだから、カッコ可愛いっ」  ひょっこり隣にくっついたのは陽菜だ。  舐め回すように、頭の先から、つま先まで眺めると、陽菜は嬉しそうに螢に笑う。 「螢先輩らしくていいっ!」 「そうかな。ありがと。誰も何も言ってくれないから、ダサかったらどうしようかなって、ちょっと悩んでた」 「え、うそ! 会長、まさか、スカートの丈、気づかなかったんですか!?」 「それは僕だって気づいてたさ。でも、男の僕がスカートの丈を『似合ってる』っていうのは、ちょっとね……」 「へぇー。会長でも、言えないことってあるんですね。メモっとこ」  学長室から生徒会室に行くには、ぐるりと校内を歩くことになるのだが、妙な視線があることに螢は気づいていた。  女子からの眼差しだ。  今まではコソコソと笑われていた雰囲気があった。  だがこの視線は違う。  空手で優勝したときの、みんなからの視線。それに似ている。 「会長、1年生が手を振ってますよ?」 「いや、あれは君にだよ。手を振り返してごらん?」  螢は腕を組んだまま、小さく手を上げてみる。  この程度なら、間違えても恥ずかしくない。  だが、勘違いの覚悟とは裏腹に、彼女たちから黄色い悲鳴が上がった。 「……どう、なってんの……?」 「君は知らないのかい?」 「なにがです……?」 「僕の副会長なのに」 「だだだから、……や、やめてってば!」  タジタジになる螢に、陽菜はニヤリと笑うと、 「螢先輩、生徒会室についてから、陽菜から説明しますよー」
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