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9話 新生・生徒会
「で、どういうこと……?」
螢が指をさしたのは、パソコンの画面だ。
「見ての通りです。螢先輩のファンクラブができました!」
「聞いてないし」
「ファンクラブって、本人に了承なくできるもんですよ? 陽菜も事務所のが1つ、私設が4つありますし」
呆気に取られるが、さらに顎が外れそうになる。
「一番はこの動画ですかね」
そう言って出てきたのは、樹と共闘していた動画だ。
アップロードされた動画だが、再生回数が半端ない。
「……再生回数、万って、なにこれ」
「陽菜、アイドルの名にかけて、しっかり編集しましたよー! 迫力あるでしょ?」
「アイドルって動画の編集もするの? なんで? え?」
螢はコメント欄を見て、さらに驚いた。
「生徒会の広告動画……?」
会長と副会長の、ちょっとしたスタントだと思われている。
『めっちゃアピ動画カッコイイ』
『副会長、やるじゃん! 応援しちゃう』
『会長、キレイだけじゃないんだ』
『美しすぎる副会長』
「ちょ……会長、事務所NGとかないの? あるでしょ? こんなのマズくいなの!? 何コレ、ヤバくない!?!?」
螢が悲鳴に近い声を上げたとき、生徒会室のドアが颯爽と開いた。
「わたくしにかかれば、この程度のこと、フィクションにも、美談にもできましてよっ!」
快斗がドアを支えながら言う。
「日本の権力の権化、白鳥財閥の御令嬢、白鳥麗華様です。そして、本日から会計を担当いただきます。麗華様、ひと言どうぞ!」
「よろしく、皆様。紹介のとおりでございますが、芸能科におります2年の、白鳥麗華でございます。わたくし、陽菜さんからこの動画を拝見して、螢さんに惚れてしまいましたのっ! それに、こんな素晴らしい生徒会をなくすなんて、わたくし、許せなくって。全て、撤回、させましたわっ! もちろん、お相手は制裁しましてよっ」
頬を赤らめ語る麗華に螢は引き気味だが、これが陽菜の実力だ。
陽菜は自分の力が不足と思えば、より適任を探す応用力がある。
あの日から、ここまでの適任者を即座に選び、仲間に引き入れられる彼女の力に、螢は驚くしかできない。
「わたくし、いてもたってもいられなくて、ファンクラブも作らせていただきましたの! もう、お隣の鈴蘭女子のみなさんもファンクラブに入ってらしてよ! はぁ~~~……ナマで、お目にかかれて光栄ですわっ!」
手を握られる螢だが、怒涛の事実に思考が固まる。
「あ、螢ちゃん、フリーズしてる! 陽菜、麦茶持ってきて、麦茶!」
すぐに快斗は螢を応接ソファに座らせると、そこへ陽菜が麦茶を出す。
一服して、数分。
「……全ては、麗華さんのおかげってこと、ですよね」
対面に腰掛ける樹、快斗、陽菜は、そのとおりといわんばかりの笑顔だ。
快斗が付け足しで喋る。
「白鳥財閥は、この学園に多額の寄付をしてくれているからね。減額でもされたら、学園の死活問題。だから、麗華様がカラスが白いと言えば、白ですねってなわけ」
「あら、快斗さん、カラスが白いとわたくしが言えば、白いカラスが用意されてよ?」
螢の隣に腰かけた麗華は、螢の髪に触れたり、服のホコリを払ったりと甲斐甲斐しくお世話を焼いてくれている。しまいには、螢の爪まで手入れし始める始末。
「つ、爪までいいです、から!」
「あら、わたくしに敬語なんていりませんわ。同級生ですもの、螢さん」
「……はぁ」
頭を抱える螢だが、樹はパチリと手を叩く。
「よし、みんなの顔合わせも済んだことだし、休んだ分の仕事を片付けてから、僕は帰ることにするよ」
「それなら、私も片付けます」
立ち上がった樹に合わせて螢も動き出すと、陽菜と快斗が麗華の腕を一本ずつ、掴む。
「オレたちは仕事ないから、帰ることにするよ」
「あとは、お任せました。よろしくです、先輩」
「わたくしはおて」
陽菜はおもむろに麗華の口を塞ぎ、2人で麗華を引きずるように生徒会室を出ていく。
慌てた動きに螢は首を傾げるが、自身に割り当てられたデスクの書類を眺め、腰を下ろす。
付箋がつけられ、日付も添えられてることから、快斗がまとめてくれていたようだ。
書類の日付にマーカーを引き、順番を確認する螢が、声を上げた。
「あの、会長、ちょっと確認が」
「なんだろう? 急ぎの締切はなかったと思うんだが」
「中学のとき、不良から助けてくれたの、会長ですよね?」
すました顔のまま、パソコンに向かう螢とは違い、樹の動揺は半端なかった。
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