深海より貴方へ

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気が付くと寒空の下に突っ立っていた。 「冷たいぞ」と男は馬鹿丸出しの発言をする。足が水に浸かっているのだから、それは勿論冷たいだろう。 彼は辺りを見回して、どうやら自分が近所の河川敷に、もとい、その河川の真ん中にいることをすぐに理解した。「うわっ」とか「おいおい」とか「マジかよ」とか呟きながら、ジャブジャブ音を立てて川から出る。 立ったまま眠ることは初めてだった。川に頭を突っ込んで眠るよりはずっと安全だろうが、道行く人の目には、さぞかし異様に映ったことだろう。気を付けなければならないと思うが、さりとて、川の中に入っていった記憶もない。 足をぷらぷらと振って水を払いながら、暫し考える。が、すぐに止めた。考えても仕方のない、意味のない、どうしようもないことだ。 その代わりに、ふと思い立って時刻を確かめた。23時42分。夢の中の憶測も、あながち間違ってはいなかったらしい。だからどうということでもないが。 それから、メールが一件届いていた。一先ず送り主を確認して、彼は思わず声を漏らした。 てっきり企業メールかと思ったが、意外や意外、八木奏からの着信だ。このご時世に高校生がメールというのも珍しい。下らない夢もひょっとすると神からの啓示だったのかと、寝惚けた頭で彼も考える。 さて、重要なのは本文だ。確認すると、ただ一行、 『ごめんね。海には行かないで』
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