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消しゴムは静かに観察していた。
我々消しゴムは砂消しゴム、練り消しゴム、オブジェとして食べ物の形を模してみたり、判子になってみたりあらゆる物へ変化した。
「お前の目的は消す事なの?消さない事なの?」
どっちつかずのコウモリだなと他の文具から批判を受けた事もある。しかし今では他の文具がコンパクト化やスリム化など、見た目を変化させていた。我々は先取りしすぎたらしい、やっと時代が消しゴムに追いついたのだ。
そこへ彗星のごとく新しい文具が登場した。
その名はフリクションペン。全文具に激震が走る。
─書いても消せる
摩擦熱を利用しているためドライヤーの熱でも消せるらしい。なんという事だ!由々しき事態である。消す事を前提に設計されている…我々にとって「書ける消しゴム」のような所業である。
自分で書いて、自分で消す。繰り返される自己完結の世界。
早すぎる進化は退化を促す。早々に大事な書類に使用してはいけないという注意書きが増えた。ペンは触れてはいけない神の領域に踏み込んでしまったのだと消しゴムは察した。
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