第5話 本気なんだ事件

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第5話 本気なんだ事件

「えっと、五十嵐さん……そうじゃなくて……」 「んもーやだなっ! 恥ずかしがらなくっていいよ、死体役なんて言い出しにくいもんね! だからわざわざ、こんなに人気のない所に呼び出したんでしょう?」  三葉は自身の妄想推理の成功を一ミリも疑わない。  思えば三葉は今朝、郁斗の部屋で()()()()()()と言った。  告白されるとは微塵も思わず、呼び出された理由を『死体役の推薦』と勘違いするアホさに、郁斗は脱力した。  こみあげていた郁人の怒りが、シュルシュルと収まる。その間にも、昴はすっかり自信と声を失っていた。  見た目もほわほわしている三葉の頭の中が、こうも斜め上を行く思考だとは思わなかったようだ。 「じゃあ、永山君に血糊を用意しなくちゃね! あ、でも制服汚れちゃうよね? どうしよっか。ビニールかぶる? それだと死体っぽくないし」 「あのさ。俺、死体役をしたいって言いに来たんじゃなくて……」 「え、違うの!? じゃあなんだろ。ちょっと待って、今すぐ推理するから、答え言わないで!」  三葉は片手を頬にあてて考える『舞子ちゃんポーズ』で本気で考え始めた。おそらく今、三葉は舞子ちゃんになりきっているはずだ。  しかし、しびれを切らした永山は三葉の手を掴む。昴は今度こそ本気の顔で彼女にせまった。 「え、なになに、どうしたの永山君!?」 「俺、五十嵐のことずっといいなって思ってて……それで、つきあって欲しくて呼び出したんだよ」  三葉は口をぽかんと開けたまま、昴をまじまじと見つめて固まった。時が完全に止まったかのような、見事なフリーズっぷりだ。 「恋人にならない? 俺とつき合おうよ」  三葉のド天然に振り回されず、ちゃんと本来の目的である告白ができた昴を郁斗は内心褒めた。  もしできるのなら拍手喝采を送りたいところだったのだが、隠れている手前そんなことはできない。 「えっと……どこかに遊びに行くっていう意味の『つき合う』じゃない、よね?」 「俺本気だよ。五十嵐さんかわいいし。女の子っぽい子俺好きでさ。声もかわいいっと思ってて、つき合ったらデートとか楽しいだろうなって」 「見た目ばっかかよ……」  聞いていた郁斗は、ため息と怒りの呟きが思わず漏れた。今すぐ出ていきたい気持ちを抑え、郁斗は三葉がどのように返事をするのかを見守る。 (まあ、あいつも彼氏できたら変わるかもしれないし……)  ほめ殺しにあった三葉は、昴に掴まれている手もそのままいまだに固まっている。  三葉の脳が昴の『愛の告白』を十年前のコンピューター並みの速度で処理し終わったころに、やっと状況を呑み込んでたじろぎ始めた。 「罰ゲーム、とかじゃないよね?」 「本気だってば。なんなら今ここでどれくらい本気か見せたっていいんだよ?」  昴の顔が三葉に近づいていく。思わず三葉が一歩下がろうとした時。 「……はい、そこまでー」  郁斗はのやる気のない声で登場すると、昴を後ろから羽交い絞めにして口を手でふさいだ。 「え、い……郁斗!?」 「三葉。てめーアホだな、極まってる」 「なっ……! ひどいっ!」  もがく昴を解放すると、郁斗は三葉の肩に腕を回して引き寄せる。 「な、んだよ内海、聞いてたのか? 趣味が悪いぞ」  郁斗は昴に向かって振り返って。 「わりーけど、死体役をやらないような男に、三葉は興味ねーから」 「お前、どこから聞いて……!」 「趣味が悪いのは永山、お前のほうだ。なんだってこの頭の中が天国みたいなやつがいいんだよ?」  それに昴は答えないまま郁斗をにらんでくる。 「答えられないなら、俺が下心満載の答えを永山の代わりに言ってやるよ。まずは三葉の顔だろ。それと声と胸。アホだけど無駄にでかいからな。変な妄想してたんじゃねーの?」 「ちっ……!」 「図星って顔すんな、アホ二号」  郁斗は「行くぞ」と言うと、三葉をずるずると引っ張ってその場から離れた。 「え、あたしの胸、顔? ちょっと待って何の話!?」 「もーうるさいな。いいから忘れろってバカ」  三葉がバタバタするのも構わず、郁斗は彼女を引きずるようにして渡り廊下から退散した。
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