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「真莉愛さんにさよならを言いに来ました。今まで、ありがとうございました」
美桜は真莉愛に別れの挨拶をした。
「さよならって、あんた、勝手に家出していたじゃない」
「はい。心配かけてごめんなさい。今度は家出じゃない。正式に真莉愛さんと暮らしていた家から自立します」
「自立って、仕事もしていないくせに? どうせ、その男のところに転がり込んでいたんでしょ」
真莉愛が侮蔑のまなざしで翡翠を見たので、美桜は翡翠を庇うように前に立った。
「私は確かに、この人と一緒にいるけれど、ちゃんと仕事をしています」
「馬鹿で無能なあんたに何ができるっていうのよ!」
真莉愛が癇癪を起こした。美桜は困った表情を浮かべたが、毅然とした態度で、
「それから、真莉愛さん。以前、私から取り上げたネックレス、返してもらえませんか?」
と、言った。真莉愛が、
「はぁ? いつの話よ。あんなの、もう捨てたし」
と、目を剥く。
「そんな……」
美桜は動揺したが、真莉愛はそんな美桜がおかしかったのか、鼻で笑った。その時、ニャーンと猫の鳴き声がした。美桜には聞こえたが、真莉愛には聞こえていないその声は、猫又が発したものだ。黒猫のいる方向に目を向け、美桜は小さく「あっ」と声を上げた。
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