終章 けじめと別れ

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 黒猫は口に、翡翠の鱗の付いたネックレスを咥えていた。美桜は急いで黒猫の元へ行くと、しゃがみこんで両手を出した。黒猫が美桜の手の中に、ネックレスをぽとりと落とす。  美桜の行動を怪訝そうに見ていた真莉愛は、美桜がネックレスを取り返したことに気づき、しまったというように悔しそうな表情を浮かべた。美桜は立ち上がると、まっすぐな瞳で真莉愛を見つめ、 「真莉愛さん、さようなら。お元気で」  と言った。 「行こう、翡翠」  美桜を見守っていた翡翠に微笑みかける。翡翠も笑みを返し、 「そうだな」  と頷いた。  スタジオを出て行く二人に向かって、真莉愛が、 「あんたの顔なんて二度と見たくない! 勝手にどっかに行け!」  負け犬の遠吠えのように、悪態をついた。  スタジオの外に出た美桜は、胸の前でネックレスを握りしめた。  大切な……大切な翡翠の鱗。 「翡翠、ごめんね……。なくしていて、ごめんね……」  無事に取り返せたことに感極まり、涙の浮かんだ瞳で翡翠に謝罪すると、翡翠はネックレスを手に取り、美桜の首にかけた。 「これは戻るべくして美桜の元に戻った。美桜、泣くな。自分を虐げていた家族に許しの心で別れを告げ、誰を責めることもなく、つらい過去を乗り越えた美桜を、俺は尊敬する。美桜は姿も美しいが、心はもっと美しい」  美桜の瞼に口づけ、髪を撫でる。二人の足元で、黒猫が機嫌良くニャァと鳴いている。 「行こう、美桜。菓子の材料をでぱぁとに買いに行くのだろう? それから、幽世に戻って、まかろんを焼いてくれ。芙蓉も待っている。他の皆も」 「うん!」 「美桜の居場所は、俺の隣だ」  翡翠が甘い声で囁いた。見上げた美桜の視線が、翡翠の熱っぽい視線と絡み合う。 (私は幽世で生きて行く)  美桜は愛しい龍神の手を、強く握り返した。
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