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芙蓉は、食堂で美桜がマカロンを完成させるのを待っていた。
(まかろんって、どんなお菓子なのかしら。お母様は、ほろほろとした繊細なお菓子だと言っていたけれど)
美桜の作る洋菓子は、めずらしいものばかりで、甘いものが好きな芙蓉の心を掴んで離さない。
「できましたよ」
美桜が厨房から、皿を手に、食堂へと出てきた。
「バニラマカロンです」
茶会に出たという、白いマカロンは、まるで月のように丸い。
「お抹茶を点てたいところだったのですけど、人に出せるほど上手ではないので、緑茶を入れました」
美桜がマカロンと一緒に、芙蓉の前に茶を置いた。
「可愛いお菓子ね! さっそくいただくわ」
芙蓉は皿の上からマカロンを手に取ると、口に運び、半分囓った。すると、
(本当にほろっとしてる)
白蓮の言うとおり、柔らかな食感だ。それでいて、中に入っているチョコレートガナッシュはなめらか。
「おいしい……!」
満面の笑みを浮かべた芙蓉を見て、美桜が嬉しそうに笑う。
「良かった」
「お店で売らないの? もったいないわ」
「現世の材料がいるので……。でも、時々なら、限定として出してもいいかもしれません」
考えながら答えた美桜に、
「そうしなさいな」
と勧める。
「このお菓子、穂高にも食べさせてあげたい」
想い人のことを考え、芙蓉がつぶやくと、美桜は、
「じゃあ、持って行ってあげてください。穂高さん、まだ食べたことがないから」
と言って、微笑んだ。
「おいしいものって、好きな人にも食べてもらいたくなりますよね」
「美桜も、そうなの?」
「はい。いつも、翡翠と一緒においしいものを食べたいって思っています」
「穂高さんの分、用意しますね」と言って、厨房に入って行った美桜は、すぐに新しい皿にマカロンを載せて戻ってきた。
「芙蓉さん、どうぞ。穂高さん、蒼天堂の事務所にいると思います」
美桜に教えられ、芙蓉は「ありがとう」と礼を言うと、皿を受け取って、食堂を出た。
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