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穂高が蒼天堂の事務所で帳簿のチェックをしていると、
「穂高、いる?」
扉を開けて、ひょっこりと芙蓉が顔を出した。
「芙蓉様。どうされたのですか?」
芙蓉が事務所に来るなど何ごとだろうと思いながら、振り返る。芙蓉はもじもじとした様子で、
「美桜がまかろんを作ってくれたの。とってもおいしかったから、穂高にも食べてもらいたいなと思って……。入っていい?」
と、尋ねた。事務所では、穂高の他に、事務員の女性あやかしが三人ほど働いている。彼女たちの前で菓子を食べるのもどうかと思ったが、せっかく芙蓉が持って来てくれたものを断ることもできず、穂高は椅子から腰を上げると、
「それでは、失礼ながら、外で……」
と言って、廊下へと出た。
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