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「ごめんなさい。お仕事の邪魔だったかしら」
芙蓉が申し訳なさそうな顔をしたので、慌てて、
「そのようなことはありません」
と、両手を横に振った。ほっとした表情を浮かべた芙蓉の手には皿があり、上に、丸く小さな菓子が載せられている。
(これが、美桜が浅葱様を納得させたという菓子か……)
物珍しい気持ちで眺めていると、芙蓉が、
「穂高も食べてみて」
と、皿を差し出した。敬愛する芙蓉に勧められて、断ることなどできない。穂高は皿からマカロンを取り上げると、一口で食べた。
「これは……」
食べたことのない味に、感嘆の声を漏らすと、芙蓉は嬉しそうに、
「ね、おいしいでしょう?」
と笑った。
「はい、おいしいです。――美桜は相変わらず、すごい菓子職人だな」
思わず美桜を賞賛する言葉を漏らしたら、芙蓉の顔が、さっとこわばった。
「美桜は確かにすごいわ。ねえ、穂高……前から気になっていたの。穂高は、その……」
何かを言いかけ、途中で口をつぐむ。
「私が、何か?」
芙蓉の気分を損ねるようなことを言っただろうかと、穂高が首を傾げると、芙蓉はキッと顔を上げ、
「穂高は、美桜のことが好きなの?」
と、問いかけた。
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