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紫陽花と向日葵
向日葵は花を咲かせると、太陽を追うように向きを変えることはやめる。その方向、その人だと決めて、もう他には目をやらない。
梅雨時の晴れ間で向日葵の季節でもないはずなのに、式場である大きな庭はそればかりで埋め尽くされている。今日の主役の一番好きな花だから。
ガーデンチェアをカタカタ鳴らし、無防備にさらされた首の後ろに手を触れた。アップ髪は慣れない。黄色の海の中で目立ってやろうと選んだ紫陽花色――むらさき――のドレスもろくに足を伸ばせなくて窮屈だし、バッグの機能をまるで果たしてないクラッチも邪魔なだけ。
『結婚式は絶対に六月。やっぱりジューンブライドって憧れるもん』
今日の主役、日葵がそんなことを言ってきたのは十年前、中学に上がった頃から。梅雨真っ最中の月にそんなの無謀だと思ってたけれど、いざ本番の今日は腹が立つくらいの青空が広がっている。
『決まったら一番に紫に知らせる』
本人はそれを一番の親友の証として言っていたのだろう。でも私はその知らせが来ることが、何よりも怖かった。
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