僕は廃棄物

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ

僕は廃棄物

 僕は廃棄物だ。   会社にも恋人にもいいように使われて捨てられた。 これからどうしたらいいのかわからないまま、夜の道を泥水のようにゆらりゆられて歩いていく。  「お兄さん、お兄さん」 いきなり話しかけられたのにビクッとして、恐る恐る顔を上げる。 すると、月の光に照らされた含み笑いをしている男性が目の前に現れた。 僕に話し掛けたわけがないと思って後ろを振り 返ると、誰もいなかった。 「いやいや、目の前のあなたに話しかけたのよ、あたし……怪しい者じゃございやせん」 ちょっと話し方が特徴的な彼はふふっと笑って目を細めた。 「お兄さん、悩んでいるでしょ? その話、誰かにぶちまけたいと思わない?」 その言葉を聞いてキャバクラのキャッチかと考えた僕は、また騙されるのかと心の中でため息を吐く。  「僕、今お金ないので貢げないですよ」 「じゃあ、場合によってはお金もらわないからさ……ちょっとお試ししてみない?」 上手い誘い文句により猜疑心が強くなる。 でも、気になっている自分もいる。 「お試しってなにするんですか?」 「お話を聞かせてくれるだけでいいのよ……ねぇ、どう?」 譲歩しているような口調なのに、強引な彼に圧倒される。 相変わらず、押しに弱いな僕。 「少しだけなら」 振り回されるのは、これで最後だと信じて。 僕は彼の提案に応じた。 「オーケー、お兄さん……あたしにちゃあんと付いてきなさいよ」 彼は僕の手を引いて、ずんずんと暗闇を進んでいった。  街灯がちらほら出てきたから、彼の顔がより鮮明に見えるようになった。 艶のある黒髪に面長の顔、一重の瞳に筋の通った鼻に薄い唇……塩顔のイケメンだ。 「そんなに見つめたってなにも出ないわよ」 苦笑いしながら指摘をされ、見過ぎていたことに気がついた僕。 「すいません」 嫌われないように僕はすぐに謝る。 「いいわよ、別に……だけど、あたしお・と・こだから」 確かめてみる? と、僕の手を引っ張って身体に触れさせようとしたから、慌ててわかってますって叫んだ。 「あらそう? ものわかりいいのね」 性的指向は女性だけど、あなたは例外かもしれないわ……なんて言って口角を上げたから複雑な気持ちになる。 不思議な人だ。  「あたしのことはゲンって呼んで?  今から行く聞き屋のオーナーよ」 「聞き屋……?」 ゲンさんはわかった。 でも、聞き屋さんは初めて聞いた。 「うちの場合はカウンセラーと出張ホストのいいとこ取りってやつかしら……まぁ、癒されなさい」 キャストでもおかしくないくらい綺麗な笑みを浮かべたゲンさんにはいと答えるしかない僕。 「あっ、僕は「あなたは名乗らなくていいわよ、お兄さん」」 言いかけた口に人差し指を押し当て、不敵に笑うゲンさん。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!