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わらう、わらう。
「はあううううう。今年もダメだったぁ……」
「あはは、燃え尽きてるね美月」
音楽室の椅子に、ぐだーっと座ってとろけている私を見て、友人の操子は笑った。N中吹奏楽部は、今年も地区大会で敗退である。去年は銀賞、今年は銅賞。県大会に進めるのは金賞の一部の学校のみだ(ちなみに、金賞取ったのに先に進めないことを“ダメ金”と呼んだりする。我が学校はそのダメ金さえ取ったことはないわけだが)。今年の楽曲の出来は去年を上回ると思っていただけに、このダメージは大きかった。先生も本気で金賞を狙って難易度の高い曲を選んだと知っているから尚更である。
――まあ、途中でめっちゃ走ってたみたいだもんね、全体的に。吹いてる時は必死すぎて気づかなかったもんなあ。
後で自分達の曲を聴いて、中盤で思いきり金管楽器が突っ走った箇所に気づき、頭を抱えたのだった。しかも、私はその時メロディーを担当していたトランペットパートの一人である。そりゃ責任も感じるというものだ。
正直、夏の大会がダメで終わった後で、すぐに切り替えて次頑張ろうとはなれないわけである。文化祭に向けて今度は一般向けの曲を練習しないといけないわけだが、暫くは燃え尽き症候群から抜け出せそうにない。ましてやその文化祭の曲は例年通りの内容のはずなので、新曲を追加しない限りは二年生以上には既に吹ける曲だから尚更である。
「去年はギリギリ銀だった、みたいな評価貰ったもんね。そりゃ今年は期待しちゃうよねー」
現在、朝練習の時間帯。とはいえ我が吹奏楽部の朝練習は“やってもやらなくてもよし”という態勢であるし、大会が終わった直後の今音楽室に来ているのは私と操子の二人だけである。ちなみに操子はトロンボーンパート。件の曲で盛大にミスった箇所は、同じくメロディーを担当していた。楽譜の上ではヘ音記号で表記される低音域を吹くトロンボーンだが、実質は“中音域の楽器”と認識されることが多い。意外とメロディーを担当することも少なくないのだ。
トランペットの音は甲高くて華やかで、トロンボーンは落ち着いていて音量に長けている。二つの楽器で一緒にメロディーを吹くと、同じ内容でも随分印象が違う。合わさって非常にまろやかな曲が仕上がるのだ――と以前母に言ったら、“まるで料理みたい”と笑われた記憶がある。
実際、それも間違ってはいまい。
音楽とは絶妙のバランスで、観客に最高の味を届ける料理のようなもの。
さほど技量のない私だが、これでも“最高の曲を届けたい”気持ちだけは一丁前のつもりなのである。金賞を取って県大会に行く、という夢があるから尚更だ。残念ながらその夢は、来年のラストチャンスに賭けるしかないようだが。
「もう少し、全体練習増やした方がいいのかもねえ。まあ、先生もわかってると思うけど」
椅子の上でぐったりしながら私は言う。
「問題は、しばらくモチベが戻ってきそうにないということだ、主に私が」
「同じくー」
「なんか楽しいことない?操子。朝練習の時間にさー、お遊びに吹けそうな曲とかなーいー?私楽譜の管理担当してないから、どの曲が何処にあるとかわからないんだよねー」
燃え尽きてても退屈を感じていても、結局音楽が好きだから私達は此処にいるのである。吹奏楽部に入ったし、皆が朝練に来ないタイミングでさえ音楽室に来ているのだ。どうせなら音楽で暇をつぶしたいし、燃えカスになったモチベーションをどうにか元に戻したい。そう思って私が尋ねると、操子が“そういえば”と口を開いた。
「面白い譜面があるって聞いたことあるんだよね。下手したらこれ、学校の七不思議のひとつかも。条件厳しいから、数えられててもめっちゃマイナーなんだろうけど。……探してみる?美月」
探すとはいかに?
私は意味を捉えかねて、首を傾げたのだった。
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