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おやすみを言うその前に。
「また出たんだって、“硝子の華”!」
期間限定、抹茶ベリー味。これもなかなかイケる、と思いながらアイスクリームに舌鼓を打っていた僕は、後ろから聞こえてきた声に振り返った。
丸テーブルを挟んで座る、女子高校生らしき二人組。深緑色のチェックスカートは、確かT高校のものだっただろうか。
「なんかちょっとロマン感じない?」
「ええ、トモミああいうの好きなの?人殺しじゃん」
「それはそうだけど、今回死んだのは悪質な煽り運転の常習犯だったっていうじゃん。なんか正義の味方が断罪したみたいでしょ。え、ナオはすっきりしなかった?」
「しなかったわけじゃないけどさー」
「でしょでしょ。なんか、闇の世界のヒーローってかんじ!」
ヒーロー。まさかそんな風に言われているとは。僕は少し呆れてため息をついた。確かに、先日殺したその男は、煽り運転を繰り返す地域でも有名な迷惑犯で、しかも何度か重傷者も出して問題になっていた人物である。煽り運転と事故の因果関係が認められず、大した罪に問われなかったのだ。あのニュースを見てモヤっていた人間が想像以上に多かった、ということなのだろう。
だからって、人を殺してその罪を裁くのが正しいとは正直思えないわけだが。世間からすれば、“悪い人間に天罰が下る”様を見るのは爽快なものなのかもしれない。
「どうやってるんだろうね。死んだ人間は、瞳の中に硝子の華が咲いたみたいになるってんでしょ?一見傷もないのに、頭の中が硝子でズタズタになってるっていうー」
トモミと呼ばれた少女は、くるくると自分のこめかみで指を回して言った。
「どんな人がなんだろうね。警察も全然しっぽが掴めないっていうし、殺し方も未だにわかってないっていうし?……あーイケメンだったらいいな、見てみたい!」
「“硝子の華”の顔が晒される時が来たら、それ逮捕された時でしょ。死刑になっちゃうわよ」
「あ、そりゃそうか。それは嫌だな。これからも悪い奴どんどん懲らしめて欲しいし!この間の、痴漢常習犯のロリコン教師が死んだのも爽快だったしさー」
他人事だと思って、好き勝手に言ってくれるものだ。
僕はミネラルウォーターが入った紙コップをじっと見つめ、そして一気に煽った。水面に映った自分の顔が“イケメン”かどうかなんて、自分じゃちっともわからないな、なんてことをぼんやりと思いながら。
主観に満ちた己や、贔屓が強い身内の言葉なんかアテにならないものである。容姿なんてものは、特に。
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