人間パソコン

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 中盤まで読んだ時点でケイコはすでにある恐ろしい予感に身を包まれて無意識のうちに身体を揺すっていたのだが、最後まで読み切ってしまったその瞬間それはどうしようもない震えへと変わり、半開きになっていたカーテンを衝動的に引くと、ベッドから転がるように降りてそのまま自室を飛び出し、廊下にへたっていた。周囲の蒸した熱気に反応して分泌されるものとは全く種類を異にする汗が全身から噴き出すのを感じる。内臓が捩れるような感覚とそれに伴う嘔吐感。吐き出してしまいたい。しかしトイレに向かおうにも足が動かない。  彼女の予感は、最悪の形で的中したのだ。  あのパソコンは、ちょっと調子悪いけどまだ使えるよなどと言われて友人から譲り受けたノートパソコンは、彼女が二年以上も愛用してきた相棒は、どこかの誰かが一方的にケイコを監視する覗き穴としてずっと機能していた。そういうことなのか。 「……気持ち悪い」  自然、口から言葉が漏れる。掠れきった自分の声が何だかおかしくて、ケイコはそのまま力なく笑った。開けっぱなしのドアの向こうで不気味に光る裏切りの愛機を見やる。あのパソコンはもはや──いや、言ってしまえば最初から、彼女のものではない。閉じ損ねた画面はまだケイコのほうを向いている。とにかく電源を落として回線を切断しなければ。ケイコの思考はようやくそこに至ったようで、震える足を鼓舞しながら立ち上がった。  そのとき、玄関のドアが唐突に開く。
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