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1.
仕事帰り、疲れた体で改札を出る。
まだ週の半分か、とグッタリした気分に襲われていると、前方に見慣れた後姿を発見し、気持ちがフワリと軽くなる。
俺の婚約者、鈴音さん。
今日も可愛い。今日も愛しい。
ニヤケた顔で小走りに近づこうとしたところで、スーツ姿の青年が、鈴音さんに声をかけた。
鈴音さんが驚いた後、微笑む。
二人が嬉しそうに会話を始める。
邪魔しては悪いと思い、しばらく立ち尽くして待つ。
眺めているうちに、青年を定食屋で見かけたことがあることに気づく。
鈴音さんの叔母夫婦が経営する定食屋。
俺も常連だが、たぶん彼は俺より歴が長い。
店ではいつもジャージ姿だったから、高校生くらいに見えていたけど、社会人だったのか。
そういえば、最近、見かけていなかった。
青年が胸ポケットから名刺入れとペンを取り出し、何やら書き込んで鈴音さんに渡す。
鈴音さんが笑顔で頷くと、青年の顔が少し赤らむ。
ん?
俺の眉がピクリと動く。
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