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「そういえば最近見ませんね」
白石に声をかけられ、作業の手を止め彼女を振り返った。煙草の補充をしていた白石は顔を上げる様子もなかったから、チルドの棚に視線を戻す。
「御影のことか?」
「いえ、いや、御影さんもそうですけど。あの美青年」
「ああ、そういや見ねえな。引っ越しでもしたのかな」
夏休みが始まったあたりだっただろうか。突如、現れた金髪碧眼の美青年はそれから毎日コンビニに訪れるようになった。北欧のほうの血でも混ざってそうな、どう見ても純日本人ではない男。モデルのような容姿をしていて、バイト仲間の間でも常に話題に上がっていた。
もしかしたら短期の留学なりなんなりで、夏の間だけ日本へ来ていたのかもしれない。だとしたら夏休みが明けたから、もう母国へ帰ったのだろう。
もう一度白石を振り返ると、また新しい銘柄の補充を始めている。元気がないのはあの目の保養がいなくなってしまったからかもしれない。
「そういえば御影さんはどこに行っちゃったんでしょうね」
「大型、賭けに負けて逃げたんだろう」
「一か月以内に地球が滅亡するか否か、でしたっけ? そんな子どもじゃないんだから、アホみたいなことで賭けないでくださいよ」
「俺もそう思ったけど、あいつすげー形相だったから乗らないわけにもいかなくてさ」
残高も寂しい貧乏大学生の預金通帳を持ってきて、全財産をかける、なんて言うものだから。酒が入ったテンションで面白がってその賭けに乗じたのだ。
「流石にそろそろ帰ってきてくんねえと、シフトも回せねぇしなぁ。連絡入れてみっか」
御影が空けたシフトの穴を埋める被害を被るのもそろそろ御免だ。まったく迷惑極まりない。
店内には幸い一人も客はいなかった。この時間は常に閑散としていて、いくらでもサボれる。仕事中でありながらポケットから出したスマートフォンで、御影へ電話を繋げた。
長いコール音。
聞いてるうちになんだか頭が回ってくる。
『――おかけになった電話番号は現在使われておりません』
入店チャイムが鳴った。
「っと……っらっしゃいませ~」
あわてて手に持っていたスマートフォンをポケットにしまい、レジに向かう。電源を切る間際に画面に表示されたある番号が目に入った。たった今不在を言い渡された電話番号。
あれ? と思う。
「これ、誰の番号だっけ……?」
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