あの小さな魔女と眠りに落ちよう

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彼の腕の中で、起こさないようにゆっくり体制を変えて顔を見上げた。 幼い頃と全く変わらない、あどけない寝顔。 じっと見ているとその目元には薄っすらと隈があることに気づいた。 なんとなく手を伸ばして目元をなぞると、何らかのまじないがかかっていることに気付く。 簡単な魔法のようなのでその場で解いてみると、先程よりも濃い隈が浮かび上がってくる。 このことを私に隠したかったのか。 どれくらいまともに寝ていないのだろうか。 けれどこの顔を見ればやけに素直な様子であることや寝付きがいいことに納得がいった。 「アンタだって疲れていたんじゃない」 あんなに元気溌剌な様子だったのに。 こんな状態なのにいつも通りの散策に同行しようとしていたのか。 隠し事をされていた事が、彼が何だか遠くにいるようで寂しく思う。 昔は何かと私に相談してきたのに、もうこの子は私の庇護無しで自分の判断ができるのか。 まるで親離れしていく息子を見る母親のような気持ちになった自分に自笑する。 まさかこの年でこんな気分を味わうことになるなんて、思ってもいなかったな。 「この、嘘つきめ」 さっきの仕返しの意味も込めてぐにっと青年の頬を引っ張った。 嫌そうに顔が歪んでいくのが面白い。 青年は少しだけ唸った後、邪魔だとでも言うように私の腕を掴んで更に抱き込んできた。脚までからめて来て、とても重いし苦しい。 けれど伝わってくる体温が、重さが、彼が生きていることを証明しているようで、心の奥が暖かくなった。 今度こそ眠りに落ちる。その寸前で彼に答えるように身を寄せて、そして呟いた。 「おやすみ」 明日もまた、目が覚めますように。
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