影追いの月

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「その躰、よく似合うぞ。なんというか、笑いたくなる」 「旦那もお似合いですよ。姉君よりもお美しくなられて。冥土の土産にいい話が出来ました」 「言うなよ」 「さあて」  軽口というには少しばかり殺気の籠もったやりとりを交わして、七夜はさてと立ち上がった。 「これから、霊山か。どこかで剣を手に入れんとな」 「その身体で、剣が振れますか?」 「さてな。無理なら、また一から鍛えれば良いだけだ」  七夜は女が大事に抱えていた包みを背に括りつけ、転がっていた杖を拾い上げた。 「無茶は止して下さいよ。いくら旦那でも、元の身体じゃないんですから」 「ああ、借り物の身体だからな、気をつける。――そうだ」  杖をついて歩き出しながら、七夜はふと呟いた。 「この身体で七夜とは呼ばれたくないな。名を変えるか」 「どんな名にするんですか?」 「そうだなあ……」  七夜は顔を上げて夜空を眺めた。鋭い程に細い月に視線を留める。 「七夜の先の月だからな。……八月(やつき)とでも名乗るとするか」 「その身体の人の名は?」 「聞きそびれたからな。なに、何か言われたら、旅の間の(あざな)とでも言えばよいさ」  軽く肩をすくめる七夜、いや八月に、柘榴も納得がいったのか異論は唱えない。  こうして、一人と一匹の長くて短い、珍道中は始まったのだった。  了
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