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「ふーむ」
腕を組み、闇の底で七夜は唸った。辺りはがらんどうの気配で風の揺らぎすら感じない。これが死の国かと拍子抜けする思いで七夜は不満を口にした。
「話しに聞く、赤ら顔のでかぶつとやらはいないのか、つまらん」
「なに物騒なことを呟いているんですか」
ふいに空気が揺らめき、何処からか声が響く。
呆れた口調でかけられたその声に、七夜は顰めっ面を止めて相好を崩した。
「おお、柘榴か。姿が見えんが居るのか」
「はい、ここに。どうも形がとりづらくて……これが魂魄とやらなのですかね」
言葉と共にうっすらと闇に浮かび上がった影は、端正な顔立ちであった生前の面影を留めてはいるが、実体と変わり無い七夜と違い、幽鬼(幽霊)に近い有様だった。
「ほう、透けてるぞ。面白いな。どれ、魂だというなら、俺もそうなのか?」
試しにと身体を捻った七夜は、足が二つとも動くことに気付いた。欠けていた指などももとに戻り、痛みも無い。やはり死んだのだと確信に至ったが、展開が開けたわけではない。
二人はあてもなく歩きながら、さてこれからどうしたらいいのかと、頭を悩ませた。
行けども行けども果てしない闇が続く。ここが死の国ならば、迎えの一つもあればよいものを、人の気配どころか怪しげな影すらとんと見掛けず、二人の幽鬼は暇を持て余していた。
「なあ、柘榴」
「なんですか、旦那」
「飽きた」
「……そうですね。ですが、何も無いようですし……。――おや」
揺らめく柘榴の影は、何かを感じたのか視線をある一点に定める。
「旦那。そこ、突いてみて下さいよ」
「ここか? ……おお」
柘榴の指し示す場所を七夜が触れると、ぐにょりと闇が歪み、景色が変わった。闇以外何もなかった場所から、夜の闇に包まれた森へと変化した。
「なんだ? 何が起こったのだ」
「ふぅむ。どうやら、現世(うつつよ)に出たみたいですねえ。戻った方が良いですかね」
「流石に、魂魄のまま現世に留まるわけにはいかんだろ。――む?」
今度は七夜が何かを感じて眉をひそめた。
「なにやら妙な気配がする。いくぞ、柘榴」
「はいはい、お供いたします」
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