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限界まで欠けた月が照らす薄明かりの森を、音も無く二体の幽鬼は駆けた。
影は影を呼ぶのか。着いた先で目にしたのは、人ならざる者。
「妖(あやかし)の類か」
若い女に取りついて、その生気を啜るそれに、七夜は躊躇うことなく近付いてゆく。
女の生気に夢中になっていたそれが、七夜の接近に気付いて牙を剥く。七夜は足を止めると、気を発した。
「はっ!」
七夜の発した気にあたり、妖は魂切るような悲鳴をあげて何処かへと消え失せた。形の小さな妖であったゆえ、七夜の強い気迫に吹き飛ばされたのであろう。
「ふん。やはり小妖程度では暇潰しにもならん」
「旦那、それよりも、あれ」
柘榴が示したのは、地面に横たわる女、その傍らでしくしくと泣き伏す女の魂魄だった。横たわる女そっくりの魂魄。見れば倒れた女の顔は月明かりの下というだけでなく青白く、命の灯火が消えかけていることが一目瞭然であった。
「遅かったか」
苦い口調で七夜は呟いた。女の身体はまだ若く、体力がある為か死に至ってはいない。しかし、もはやその魂はぼんやりと薄れていて、生気の欠片も無い。
身体から魂が離れ、消えかけつつある。
「――死ねないのです」
ほろほろと涙を流しながら、女は言う。
「わたくしには、務めねばならぬお役目があるのです。天子様より授けられたこの宝冠を、霊山へと奉じなければ、我が一族は……」
「霊山……、お主、巫女か。しかし天子とはなんだ」
「この地をあまねく統べる、偉大なる大三神の天子様です」
「ふうむ。柘榴、知っておるか?」
七夜の問いかけに、先程から難しい顔で唸っていた柘榴は答えた。
「恐らく、ですがね。どうもここは、私達が居た時代より随分と前のようですよ」
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