影追いの月

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 残された女の肉体に、七夜はするりと入り込む。初めてのことだが、女の想いが宿っているのか、存外簡単に馴染んだ。 「ううむ、なんという重量感だ」 「……なにをやってるんですか」  呆れた声が随分と低い位置から聞こえ、豊かな双房を両手で持ち上げていた七夜――否、七夜の魂魄が入っている女は首を傾げた。 「柘榴か?その(からだ)はどうした」  柘榴の声で喋ったのは、白い毛並みの大きな犬だった。 「あのままじゃあ、私も消えてしまいそうでしたからね。この犬に宿らせてもらいました」 「どこから見つけてきたんだ?」 「この犬、旦那の身体の人に飼われてたみたいですよ。そこで倒れてました。その人の頼みなら、ってすんなり宿らせてくれましたからね」 「そうか……。お前も、それでいいのか?」 「私は旦那の従者ですよ。旦那が行くと決めたんなら、お供しますよ」  言って尻尾を振る犬の姿に、七夜は微笑みを浮かべた。 「そうか。なら、これからもよろしく頼む」 「ええ、任せといて下さい」  お互い真面目くさって頭を下げて、顔を見合せて吹き出した。
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