敵に塩を送ってもいいの

3/10
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
 また河野さんだ。私の方に身体を向けて、しっかりと話を聞く体勢だ。私は警戒心のようなものを抱きながら、とりあえず見ているアニメのタイトルをひとつ挙げた。少年誌に原作が連載されている比較的メジャーなものだ。すると、「あ、それ昔見てたよ。お兄ちゃんが見てたから」と吉川さんが声を上げた。「話が難しくて途中で見るのやめちゃったんだけど。クローンとかの話じゃん? そっか、今ならちゃんと内容分かるのかな」なんて続けられて、「あ、そうなの。私も昔見てて、そのときは意味が分からなかったんだけど中学生になって原作読んだらさ」などと調子に乗ってすらすらと話してしまった。しまった、と思った。あーあ、「へぇ、詳しいね」なんて意味深な笑みを向けられるんだろうなぁ。それで、明日からはクスクス笑われるんだろうなぁ。そう身構えたのに、吉川さんの笑みはちょっと種類が違った。 「へぇ、じゃあまた見てみようかな」 「私も見てみようかなー。槙田も漫画読んでるらしいんだけど、面白いって言ってたし。佐伯さんってどのキャラが好きなの?」  河野さんも私に笑いかける。戸惑いながら推しキャラの名前を挙げると、「ふぅん、覚えとこ」って河野さんはウィンナーを頬張る。俯いたときに揺れた髪はびっくりするほどさらさらで、なんだかいい匂いが漂ってきた。 「ていうか、由紀(ゆき)ちゃんって呼んでいい?」  河野さんの声に、「私も」ってみんなの声が重なる。「どうぞ、……好きに」って返したら、由紀ちゃんって呼ばれることになった。私も、みんなを下の名前で呼ぶことに。河野さんは、美菜ちゃんだ。  私の世界は、どうしちゃったんだろう。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!