敵に塩を送ってもいいの

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 何ていうか、世界は意外と優しかったみたい。全部がそうってわけじゃないと思うけど。でも、少なくとも、今の私をとりまく世界は。たぶん、美菜ちゃんが私のほっぺたを揉みにきてくれなかったら気付かなかった。その美菜ちゃんは、校外オリエンテーションまでにニキビを治すのが間に合わなかった。目的地のお寺に向かう道すがら、すごく落ち込んでいた。話を聞いていると、自由時間に槙田くんと一緒に行動する約束をしていたみたいだ。「手ごたえがあったら告ろうかなーなんて考えたりしてて」と眉を下げて笑う美菜ちゃんを見ていたら、私まで悲しくなってきた。だから次の日、お母さんに聞いたことを教えてあげた。お母さんは皮膚科で医療事務をしているから、ニキビにも結構詳しい。お菓子を果物に替えるといいよって美菜ちゃんもとっくにやっていたこととか、市販されている皮膚薬の中でいいやつとか。本当ならニキビくらいって思わずに皮膚科を受診した方がいいみたいなのだけれど、美菜ちゃんのお母さんはその考えじゃないみたい。  意外と優しいんだと知った世界は、私を少し贅沢にしてしまった。美菜ちゃんと一緒にいることが増えたから、美菜ちゃんと仲の良い槙田くんとも話すようになった。「お、やっぱ佐伯、絵ぇ上手いよな」って、ノート端の落書きを褒められた日の夜は布団の中で槙田くんの声を思い出した。その声で、「佐伯、好きだよ」って言葉も想像してしまって、掛布団を咄嗟に頭からかぶった。変なの。こんなの、ぜったいに変。私は、本当にどうしちゃったんだろう。  次の土曜日は、中心街まで出た。目的地は市内で一番大きな商業ビルに入っている書店だ。好きなアニメ――前に美菜ちゃんたちに話したアニメだ――のキャラソンCDを予約していたのでそれを受け取りに行く。今回の店舗別特典を吟味した結果、このお店で買うことにした。商業ビルにいる私ってとんでもなく場違いな気がするから、普段はあんまり来ないのだけれど。
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