敵に塩を送ってもいいの

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「由紀ちゃん、何か食べて行こう? ニキビのお礼、おごるから」  エスカレーターに乗ると、美菜ちゃんに言われた。ちょうど、三時を知らせる館内放送が鳴ったところだ。「おごらなくていいよ」と恐縮したのだけれど、「いいのいいの。ほんとに感謝してるから」と美菜ちゃんは笑う。おずおずと頷いて、地下一階のフードコートまで一緒に行った。 「何食べようかなー。何か食べたいのある?」と小首を傾げる美菜ちゃんの顎を見て、「あ、」と声を上げる。 「美菜ちゃん、甘いのとか脂っぽいのって駄目だよね?」  せっかく治ったニキビがまたできてしまう。そう思ったのだけれど、「え、いいよ大丈夫! 私のことは気にしないで。せっかくなら食べたいもの食べよ?」と美菜ちゃんは手を振った。 「でも、せっかく治ったんだから」  ニキビに影響なさそうなものを、とフードコート内を見回してみて、端っこの方にチェーン店のうどん屋を見つけた。 「ごめんね、気ぃ遣ってくれて」  割り箸を割りながら、美菜ちゃんが申し訳なさそうに眉を下げる。「全然」と私は手を振った。 「うどんは好きだから。あの、気を遣ってるとかじゃなくて、ほんとに好きだし……」 「あはは、ありがとっ」  美菜ちゃんは朗らかに笑うと、うどんをすすった。私もうどんをすする。小盛の温玉うどんだ。 「由紀ちゃんが言ってたアニメね、漫画の方だけど槙田に借りて読んだよ」から始まったアニメと漫画の話がしばらく続いた。やがて透明な出汁の向こう側にどんぶりの底が見えてきた頃に、「あのね」と美菜ちゃんが切り出した。 「ニキビも治ったし、槙田に告ろうかと思うんだ。その、由紀ちゃんにいろいろ良くしてもらったから、一番先に言おうって」  緊張した声だった。「そっか」と私は相槌を打った。美菜ちゃんの、可愛らしい顔立ちを見つめる。きっと、ニキビなんてあってもなくても関係ないのに。それでも美菜ちゃんは、一番に可愛い自分で気持ちを伝えようとしたんだ。一生懸命恋してるんだな、と思った。頑張ってね、と言おうとした。でも、唇を開いた瞬間によく分からない苦しさが胸に押し寄せた。 「……由紀ちゃん?」 「あ、何でもない!」
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