敵に塩を送ってもいいの

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 慌てて笑ったけれど、さっきの沈黙は美菜ちゃんに心配をかけるのに十分だった。「具合でも悪い?」と目を覗き込まれた。きれいな二重まぶたの下からのぞく瞳は、きらきらと光っている。世界が結構優しいんだって教えてくれた美菜ちゃん。美菜ちゃんだったら怒らないかなって、美菜ちゃんの優しさに甘えてしまったのかな。 「私も好きなの。槙田くんのこと」  美菜ちゃんが大きく目を見開く。その次の瞬間に聞こえた声は、「駄目じゃん!」だった。私が目を瞠ると、「ほらあれ……上杉謙信の! 敵に塩を送っちゃってるじゃん!」と続いた。思いがけない返答に、「え」と私は息を呑む。美菜ちゃんは「わ、ていうかごめんね!」と思いっきり眉を下げた。 「私があれだけ、槙田のこと好きだって言ってたら言いにくいよね? ほんっとにごめんね!」 「や、そういうわけじゃ……」  本当に、そういうわけじゃない。私が槙田くんを好きなことなんて、そもそも誰にも言うつもりがなかったのだから。――そうだよ、誰にも言うつもりがなかったのに、どうして美菜ちゃんに言っちゃったの? いつも通り、私の中に封じ込めて、「頑張ってね」って言えばそれで終わりだったのに。美菜ちゃんにこんな、申し訳なさそうな顔をさせなくてすんだのに。  美菜ちゃんの眉が、ひときわ大きく下がる。けれどそのすぐ後に、眉は元気よく持ち上がった。 「そっか、ライバルね! 私も、負けないから」  美菜ちゃんは笑う。朗らかな笑みだ。ごめんね、と言おうとした。でも、美菜ちゃんがくれた明るい声には釣り合わないと思ったから、「うん」と私は頷いた。それから、美菜ちゃんはまた、アニメとゲームに話を戻してくれた。私たちはつい数分前と同じように、笑い合いながら話をした。
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