敵に塩を送ってもいいの

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 知らないかもしれないけど、スクールカースト最底辺のオタク女子中学生だって恋に落ちたりするんだよ。「すげーじゃん」って美術の授業で描いた絵を褒めてくれたクラスメイト相手に簡単に。クラス発表の貼り紙で自分の名前より先に見つけて、今年もおんなじクラスだってことに喜んじゃうくらい、みじめにも結構恋してたりする。でも、私が恋してるなんて言ったなら、みんな、私の好きな人に意味ありげな視線を向けてひそひそ笑うでしょ? 好きな人は、「うぇぇ」って吐くような素振りをするの。それか、「俺の彼女ちょー可愛いでしょ」って面白そうにけらけら笑う。だって、恋をしても笑われないのってカースト上位の特権だもん。中三(ちゅうさん)にもなれば嫌でも分かってる。だからこの恋はちゃんと封じ込めるし、そっち側に関わろうなんて思わないよ。もっとも、そっち側も私に関わるつもりなんてないだろうけど――って思ってたのに、何で?  私は今、スクールカーストピラミッドの最上位に君臨するだろう女子に、ほっぺたを揉まれている。           * 「ありがとー、癒されたぁ。ずっと憧れだったんだよねぇ。すべすべでふわふわしてるんだろうなぁって」  始業式後の教室にて。去年も同じクラスで、今年は出席番号が前後だった河野(こうの)さん。彼女は私のほっぺたを手放すと、二重まぶたを思いっきり垂れさせて笑った。私のほっぺたが憧れだったなんて言葉は本音の裏返しだ。さすがオタク、地味で丸くてダサいほっぺただよねとかそういう本音。普段ならそう判断するだけなのに、河野さんの言葉には驚くほど毒気がない。まさか、本気で言ってる? 訝しく思いながらも、とりあえず「ありがとう」と言ってみる。すると、「ほんっと、肌キレーだよねぇ。洗顔何使ってるの?」と朗らかな声が返ってきた。私を見つめる丸い目は、蛍光灯の光をきらきらと反射させている。彼女がまばたきをしたら、繊細な睫毛が音もなく震えた。睫毛の長さに慄きながら、浴室にある洗顔フォームのパッケージを思い浮かべた。 「何だっけ……。お母さんが買ってきたやつだから」 「じゃあ、分かったら教えて欲しいな。校外オリテまでにどーしてもこれを治したいの!」  そう言って河野さんが指差したのは、顎にできた赤いニキビだ。結構大きくて、真ん中には芯みたいなのも見える。
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