第三十二話

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「美月から連絡もらってね。美波くんが佐助の生前のブログ見つけて泣いてるって。それでそのブログをスマホで見てみたら、これはまずいと思って引き返して来た」  リビングには父さんもいた。たぶん母さんじゃ手に負えないから父さんを呼んで、父さんが月島師匠を呼んだのだろう。 「ごめんな、美波くん、佐助を追い詰めたのは父親の俺だ。俺も佐助があんなに悩んでたのに気が付かなかった。君は悪くない」 「だけど……」 「どうしてもそう思えないなら、俺も共犯にしてくれ、君だけが悪いということはない」 「うう……」  僕は涙を拭った。 「それから、道中でこれも読ませてもらったよ」  月島師匠は僕が書いた小説を取り出した。 「まったく、俺たち親子は揃って、君たち親子に惑わされる運命なのかね? ……まあそこは置いといて、佐助はここに来て、君と出会って、幸せだったんだなと思ったよ。佐助はさ、プロ棋士の息子に生まれてプロ棋士の世界ばかり見ていたからね。何も知らないで将棋を楽しんでいた君のこと、すごく気に入ったんだろうね。一緒にプロを目指したら、どうしてもライバルになってしまうからね、君との関係が壊れるのを恐れてたんだと思うよ」  また涙が溢れた。  月島師匠も、傍で見ていた母さんも、父さんも一緒になって泣いた。そうか、僕はずっと一人で泣いていたんだなと思った。友達の死ぐらい、一人で乗り越えなくちゃって、そんなことばかり考えていた。この一年、母さんも父さんも寄り添ってくれていたことに、やっと気がついた。  月島師匠は終電ギリギリまで僕の家に滞在してくれたあと、僕が落ち着いたのを見届けて東京に戻っていった。  僕はそのあと遅い夕食を食べた。涙は止まっていた。  今日、両親と月島師匠が僕に寄り添ってくれなかったら、僕の心は壊れていたかもしれない。  父さんが心の病気になったのは、崩れそうになったその時に、助けてくれる人がたまたまいなかったのだろう、と僕は思った。
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