フグの祝福

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フグの祝福

 おれの名前は永井(ながい)修(しゅう)平(へい)、婚約者と結婚式場を予約して、役所に婚姻届けを提出して、ゴールインなんだけど、なんと妨害してくる奴がいた。  正体はわからないけど、彼女と知人に招待状を作成していたら、なんと予告状を送り付けてきやがったんだ。  名前はSHOCK・BOOTS。  ショック・ブーツって、ふざけてるだろう。  そいつは《結婚をメチャクチャに踏みにじってやる》と、おれの実家に送りつけてきやがったんだ。  人の幸福を踏み潰すからSHOCK・BOOTSと、名乗るとは、なんて大胆不敵な野郎だ!  まあ、こんなのは想定していたさ、なんせ彼女は芸能界でそこそこ人気のある女優なんだからな、一般人のおれなんかと結婚すれば、悪ふざけする輩(やから)は出てくるだろうさ、彼女のSNSにも似たような内容のメールが山盛りてんこ盛りさ。  だが不気味なのは相手が彼女のマンションや、事務所にも執拗にハガキを送り付けていることさ。  そしておれの職場、そして実家、奴の執念というか周到さを感じさせる。  つまり、《こっちはなんでも知ってるんだ!》というアピールをしてがる。ほんとうに気持ち悪い。  だが奴はまぬけにも、この永井修平をマジに怒らせたらどうなるか、わかっちゃいないということさ。  じつはおれの仕事は自衛隊の特殊部隊。ロボット犯罪のエキスパートさ、すぐに上司に相談したよ。  すると、二見恵介三佐は「なるほどな、それは災難だな」と、同情して、「悪いが、この件では部隊を正式に動かすわけにはいかないが、仲間を見捨てるわけにはいかない。隊員を五名、そしておれに加えて、娘の景子と、うちの家事手伝いの居候ゴンタロウを招待しておいてほしい」と命じてきた。  もちろんふたつ返事で承諾したよ。  二見景子とゴンタロウさんのコンビは負け知らず、これ、自衛隊の間では常識だ。このコンビの名を聞いて、おれは心底、三佐に感謝したよ。  ゴンタロウさんの正体は公にはされていないが、パワードスーツを兼ねた戦闘用アンドロイドで、お嬢さんはその操縦者、これまでふたりで数多くの難事件を解決してきた。  コストパフォーマンスはふたりだけで中隊に匹敵すると言われているくらいだ。結婚式の警備で、これほど心強いことはないだろう。  まさに虎の子の戦力と言っていい。  三佐のお嬢さんとは二、三度、ある事件で顔を合わせたことがある。  丸顔のお嬢さんで、われわれと行動するときはいつも仏頂面だ。  だからフグに似てしまう。  いや、その……。不覚にも、そう見えるんで、仲間内では《フグ娘》なんてあだ名があるくらいなんだよな……。(もちろん三佐に知られたら、地獄を味わうことになるので誰も表では口にしない)  おかげで危険な任務にもかかわらず、おれたちの間で犠牲者や怪我をした者はいない。  おれとフグとは相性がいいんだよ。  突然なに言いだすんだって? 民間人に、それも上司の娘さんに手助けしてもらって、恩知らずにも陰で《フグ娘》って、ひどいあだ名付けてるって? 自衛隊の風上にもおけない野郎どもだって? ごめんなさい! でもほんとなんだ! 相性がいいんだよ! 苦しい言い訳だって? いや、嘘じゃないんだって!  彼女と初めて出会ったときは大阪の有名なフグ屋の前だったし、告白した時も、フグ鍋を食べていた時だった。初めてのデートで釣りしたときだって、ハコフグが釣れて、ふたりで逃がしてやった思い出もあるんだよ。  だいたい、フグはとても縁起がいいんだ! だからフグの精じゃなかった。怒ったらフグに似てくるお嬢さんは……。  ごめんなさい、罪悪感で、つい取り乱しちまった。  いや、言い訳はよそう。  少なくとも、おれは二度と彼女のことを《フグ娘》とは呼ばないようにするよ。陰口なんていけないことだしな。  ちなみに、なんで戦闘用アンドロイドに《さん》づけなのか、自分でも悩むけど、あっちが古参というかベテラン感があって、ついつい委縮しちゃうんだよね、マジで人間そっくりなんだもの。  べつに機械に嫉妬しないけどさ。イケメンだから女性隊員に大人気なんだよ。アンドロイドというのも萌えポイントだというから謎は深まるばかりだ。近頃の女がわかんねえ。まあ、おれは結婚するからいいけどさ。  話を戻すよ。  あくまで個人の結婚式だというのに、過剰ともいえる警備体制を三佐は敷いてくれたんだ。  感謝してるし、仲間がこんなに頼りになるなんて考えもしなかった。  もちろん、自分でも犯罪防止に動いたさ、ホテルの担当者と一緒に、万が一のことが起きないように事前に会場をチェックした。  できることならショック・ブーツが悪ふざけであってほしい。  だが願い通りにいかないもんだ。  受け付けには同僚が目を光らせて、招待客をチェック、だれも怪しいやつを近づかせなかったが、事件は花嫁が招待客にむかってブーケを投げたときに発生した。  なんとブーケの花束が変形して、蔦みたいな触手が何本も生えたじゃないか。  三佐が招待した仲間と一緒に、女性の招待客をブーケから遠ざけておき、「ゴンタロウ!」と、命じるや、ゴンタロウさんは怪物と化した花束をキャッチすると、それを地面に投げて踏みにじり、またたくまに潰してしまった。  さすが戦闘用アンドロイドだ、最近、改良されて単独で動く時は人間の三倍速く動くように改良されている。
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