欠片

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      「糞がっ...やっぱ千円札1枚じゃ秒で溶けるな...」 誰かが聞いてくれる訳でもないのにわざわざ吐き捨てるように俺は言う。   ギャンブルなんてそうそう勝てるものでもないのに謎に期待して、   気づいたときには財布の中身は全部パチンコ台に喰われている。   そんな事、自分が一番解っていることなのに...    溜息交じりで歩いていると、ある店の前で足が止まった。  見窄らしい外観、薄汚れたトタンの屋根、大きな穴の開いた看板。      看板がなければ誰も店だとは思わないだろう。 もっとも、こんなボロ屋をまじまじと見てるやつなんて俺以外にはいないが。    俺は吸い寄せられるように妙な雰囲気の店へ入って行った。        中に入ると、草木の嫌な匂いが鼻を突く。   カビの生えた床には雑草が深く根付き、目を奪われてしまいそうな      美しい輝きを放つ石が店のあちこちに散乱している。         物珍しそうに店内を見ていると           「何かお探しですかな?」   声のした方へ振り返ると、紺色の布に身を包んだ老人が立っていた。         いや...呪術師とでも言うべきか...。 老人の腰には爬虫類の死骸が吊り下げられ、魔法の一つや二つ使えそうな風格 を全身から感じる。  「あの、ここってどういう...」考える前に口を突いて言葉が出てくる。             老人はニヤリと笑い、   「ここはカケラの店でございます。貴方も同じものをお持ちじゃろう?」 としわがれた声で言った。 「あなたのお望み、何でも揃う。心を糧とし、富を得るのもまた面白い」 老人は話し続けていたが、あるところで俺は話を止めた。 「富を得るって...?」「カケラを売り、その分の金を手に入れるのです。 質屋と同じですな。カケラ一つで、約12万」 これだ!俺が求めていた物は!丁度要らないカケラなら何個か持っている。 「じゃ、この忍耐のカケラ、買ってくれ!!」興奮しながら俺は言う。 「左様。じゃが... カケラは持ち主を離れると効力を失う。もって24時間程。 そして、一度 手放してしまうと自分の元に戻す事はできん。 それでも良いのか?」 「別にいいよ。だから早くこのカケラを買ってくれ!」 もう俺は金の事で頭がいっぱいだった。    「ハハ...そう急ぐでない。 ほれ、持ってお行き。」 俺は積まれた札束を乱暴に掴むと、ありがとうも言わずに店を出た。  
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