ある公爵令嬢の婚姻①

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ある公爵令嬢の婚姻①

   お嬢様がキレました。  来年、盛大な結婚式が執り行われる予定だった婚約中のアルターニス王国の王太子が、やらかした。  愛妾がいて、しかも現在妊娠中だというのだ。  仕方なく、内々に側妃に迎える手筈を整えていた矢先、今度は、遊学中の大国の皇女にも無礼を働いたとかで、外交問題に発展しそうになり、腰の重かった官僚達も、王太子の身辺調査を行い、素行の悪さが次々と露見。  お嬢様の父、ロックヒューストン公爵は激怒し、婚約は解消。  王太子は公爵家の後ろ盾を失い廃嫡され、臣籍に降下した。  初めのうちは王妃教育から解放されて、自由気ままに過ごされていたお嬢様だが、年頃の美しい公爵令嬢を放っておくはずもなく、しばらく様子を見ていた貴族たちも、第二王子の立太子の準備が始まるや否や、縁談の申込みが殺到。  釣書と姿絵で書斎の一画が埋まってしまった、ある日――。  凛々しい騎士姿で、私の執務室に入って来るなり、こう言った。 「レオン。お父様に了承を得たわ。公爵家に釣り合う爵位以外と年齢が十歳離れた相手の縁談は断って!」  また自主練習をしていたようで、額に汗を滲ませている。 「では、侯爵家と伯爵家。二十七歳以内のご令息とお会いになりますか?」  引き出しからタオルを取り出して、お嬢様に手渡すと、 「ええ。私に勝ったら、結婚してあげるわ」  汗を拭きながら、歯を見せて笑った。  王妃教育には剣の鍛錬は入っていなかったが、幼き頃から、私と弟のダニエル様に交じって剣の稽古をしていたお嬢様は、今では近衛隊隊長のお墨付きの腕前の持ち主だ。 (それは結婚しないと言っているのと、同じなのでは?)  私はレオン。  ロックヒューストン公爵家の使用人。
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