月に跳ねる

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 雨が降ってきた。  夕立だ。  日暮れ前の空に小さく浮かんでいた白い月は浅黒い雲に飲み込まれ、やがて視界の大半は白い雨筋に占領される。  子供達は急いで帰っていく。  僕は1人、雨に濡れながら見送った。  雨に降られることを避ける意味が、よくわからなかった。  皆、雨が降り始めると傘を差したり、急いで帰っていく。どうして濡れることを、そんなに避けたいのか、僕にはよくわからなかった。雨に濡れると、何か悲しくなるのだろうか。  学校へ行く意味も、よくわからなかった。  皆、口を揃えて学校へ行くのは億劫(おっくう)だと言う。朝から夕方まで閉じ込められて、聞きたくもない話を聞かされるのに、どうして皆は毎日学校へ行き続けるのだろう。友達に会える、と言う子供もいたが、学校なんて行かなければ、もっと皆で遊んでいられるのに、どうして毎日同じ時間に同じ場所へ同じように行くのだろうと、毎日思っていた。  夕暮れになると、皆、家に帰っていく。お腹が空いたと言いながら、家に帰っていく。お腹が空いたのであれば、何か探して食べればいいのに、どうしていちいち家に帰ってご飯を食べるのか、僕には理解できなかった。せっかく皆で楽しく遊んでいたのに、日が暮れると、僕はいつも独りになってしまう。少なくとも明日の学校が終わるまで、僕はずっと独りで過ごさなければならなかった。
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