月に跳ねる

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 一度だけ、町へ行こうとしたことがある。  島の中央には町があって、皆はそこへ帰っていくらしい。一緒に遊んでいた子供達がそう言っていた。  皆がそんなにも帰りたい所は、さぞ楽しいところなんだろうなと、興味が湧いた。  でも、いざ町へ向かおうと、海岸沿いの堤防を渡り暫くして、舗装した道路が目立ち始めた頃に、車に乗った大人に見つかってしまい、僕は町の中へは入れなかった。  別に大人に追われたわけでも、怒られたわけでもない。ただ、ここはお前の来るところではないよ、と優しく(さと)された。  僕は皆に迷惑を掛けるつもりなんて無い。素直に忠告を受け入れ、僕はそのまま引き返した。また子供達が遊びに来てくれるまで、大人しく海岸で待つことにした。  それ以来、僕は町へ行こうとはしていない。また忠告されると、また悲しい気持ちになってしまう。それは嫌だった。  一体、どうして僕は町へ行けなかったのだろう。  降りしきる雨音に少し苛立(いらだ)ちながら、僕は考えた。  僕が皆とは違うから、行ってはいけないのだろうか。  僕が皆とは違うから、皆と同じようにはさせてもらえないのかもしれない。きっとそうなんだろう。なんだか、また悲しい気持ちになってきたけど、それは仕方の無いことなのかもしれない。  自分と違う者を区別しなければ、きっと自分は保てない。僕だって、本当はそうなのかもしれなかった。  どうすれば、僕は皆と同じになれるのだろう。  皆と同じになれば、僕は皆と同じように町へ帰り、皆と同じように、誰かが傘を差し伸べてくれるんじゃないか。  激しさを増す夕立の濁音に(あお)られ、僕は皆と同じになりたいと、強く願った。
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